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僕と彼は、保健委員

ゴリ・・・ゴリゴリゴリ・・・。
今は授業を全部終えた時刻。
各々が委員会へ行ったり庭先で遊んだりと、活動する声がそこかしこで聞こえる。
それに混ざって、外に恋焦がれて生き急いでしまった気の早い蝉の声も少しだけ響いていた。

そんな中ここ保健室では、今日の当番に当たっている僕、六年は組の善法寺伊作と五年は組の近江鴻は予備の薬草を擂っていた。
保健室には、量によっては致死に値するものや、使用法によっては生きも死もするような薬草がごまんとある。
なので、危険性を考えて薬草を擂る時は上級生のみの時か、同室の食満留三郎には悪いが自室で行うと決めていた。
打ち身用などの塗布薬や胃薬程度ならば、下級生に教える為に一緒に擂る事もあるけれど。

僕はこの時間が好きだ。
周りの音が遠くに感じるくらい集中し、擂り鉢が規則正しく行き来する様は無心を与える。加えてゴリゴリと鳴る音が己の存在を確かなものとし、立ち込める薬草の匂いに気持ちが落ち着いた。
何だかこう言うと臆病な淋しい子みたいだけど、そういうつもりではなくて。
何と言うか、日頃不運だ忍者に向いていないと言われる僕だけど、役に立てることがあるのだと実感できる瞬間って話し、かな。
勿論周りのその言葉は僕を想ってくれての事だとも理解している。愛情表現や心配をしてくれているが故の事だって。証拠に友は多いし、何と文句を言っても必ず助けてくれる。
そんな彼らを含む、僕の大事な人たちが元気でいられる手助けを、薬を擂り医療の知識をつける事で出来るのならば、なんて嬉しいことなのだろうと思う。

ゴリ・・・ゴリゴリ・・・ゴリ。

この一回一回の擂りに“早く良くなりますように”と願いを込める。
ふと、小さい子のおまじないのようだと思ったら笑みが零れてしまった。
「ふふっ、」
「・・・どうかしましたか?伊作先輩。」
突然笑い声を零した僕に、同じく薬草を擂っていた鴻が不思議そうに鉢から視線を上げて見る。

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