01


画像
たまにはこっちで寝転がってみた

さて、どうしたものか。なんて呟きながら暁人は人気の無い縁側に寝転がる。
暖かな日差しが睡眠を誘う正午近く、暇な時間に休息をと寝転がった…が。なかなか寝付けない。何かが足りないらしい。

「あ、鴻。」

ふと視界に、見慣れた後輩の姿を見つけ声をかける。
軽く上半身を起こすと暁人は、ちょいちょいと手招きをした。


図書室に向かう途中、自分を呼ぶ声に近江はゆるりと振り返る。
ここ数年、卒業してから見る事の無かった三つ上の先輩の姿が視野に入った。
自分を招く手の動きに合わせてたおやかに揺れる深紅の髪を見つめ、彼が学園に居る不思議と安心感に近江は思わず目元を綻ばせた。
「お呼びですか?遠野先輩」
「ん、ちょっと。今暇か?」


ニコリと笑みを浮かべて自分の隣をぽんぽんと叩く。
暗にここに来いと言うような仕草は、暇かと問いかけけいる割りには強制力を伴っているようにも見える。
もう一度ぽんぽんと隣を叩くと、くぁ、と小さく欠伸をこぼした。


近江はその促す仕草にくすりと一つ笑みを溢すと、遠野へと歩み寄る。
「珍しいですね、お一人でいらっしゃるのは。」
遠野が学園に来てからこっち、時間も場所も関係無く七松に手合わせを挑まれているという事は近江も耳にしていた。
「今日はもう七松先輩と?」
一戦交えた後なのかと問う。


「朝一で、な。」
そう、肩を竦める。
それは問いかけに対する答えで、どうやら朝一で一戦…いや、二戦ほど交えてきたのだろう。
「おかげさまで朝っぱらから割と全力投球しちまったよ、あぁ疲れた。」
なんて笑う表情に疲れは見えない。どちらかといえば楽しんできたような表情だ。
さらに暁人は「ちなみに」と付け足すと
「お一人なのは、俺のこと追い回すあいつが用事で不在だからだ。」
そう、ニッと笑う。
だから相手をしていけというように、再び自らの隣をぺしぺしと叩いた。


「左様でしたか。お疲れ様です。」
くすくすと零れる笑みをそのままに、「失礼します」と会釈をして遠野の隣に座る。
「お疲れだとおっしゃる割には、とても楽しそうですね。」
遠野の穏やかな空気につられ、近江もふんわりとした笑顔を向けた。


相変わらず丁寧なやつだなあと思いながら、いらっしゃいと隣に腰掛けた鴻へと声をかける。
控えめに笑う声も優しい笑みも、彼が居るだけで場の空気が和む、そんな気さえする。
いや、現に和んでいるのだけれども。
「ははっ、まあ楽しいぜ。犬と戯れてる感じ。」
一戦交えるのが犬との戯れだというのも如何なものだが、暁人はけらけらと楽しげに笑った。


「犬、ですか。」
言い得て妙だと、近江もくすくすと笑った。
「こう言ってなんですが、それを言ったら先輩にも当て嵌まるような気も致しますが。」
二人が楽しそうに活き活きとじゃれ合っている…もとい一戦交えている姿を想像して、近江はくくっと笑い、隣に座る遠野を見上げた。



[ 183/184 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]



- ナノ -