03




本題、という言葉に暁人は首をかしげる。
そして少々子供らしい…といっては失礼かもしれないが、わくわくと楽しげな表情で指導を受けたいという鴻の言葉に、目をぱちぱちとさせた。

「よし!!!」
パァンッと自らの膝を叩くと、暁人は勢いよく立ち上がる。
「そういうことなら今からすぐに行くぞ!何心配するな、俺の鎌貸してやるから!裏々山だな?!よし、任せろ!」

他ならぬ可愛い後輩の頼みで、しかも自分の得意な武器についての指導願いと言われたら断る理由など暁人にはない。否、後輩の頼みを断るわけが無いのだが。
さあいくぞと腕を回してやる気満々の暁人は、本人以上にわくわくと楽しげな笑みを浮かべながら愛用の鎖鎌を手に取る。
その様子はまるで某暴君さながらで、いくら申し出がこの後と言えど相手にも都合があるだろう。

しかし今の彼に、そんなことを配慮することができるわけもなく、至極楽しみだといった顔を鴻に向けたのだった。



自分の申し出に二つ返事を返してくれるどころか、至極楽しそうに今すぐ行くぞと勢い付けて立ち上がった遠野に、近江は思わず「ぶはっ」と吹き出した。

「あははっ、あ、すみません、笑ったりして。」
近江は嬉々として準備をする遠野を見上げて、そう詫びた。
「そういう所、本当に七松先輩と似ておられますね。ふふっ、」
まだ笑いが引かないのか、口元に笑みを浮かべたまま近江も立ち上がる。
「とても嬉しいです。是非、今から稽古の方をつけて頂きたく存じます。」



突然笑い出す後輩に、暁人はキョトンと首をかしげる。
何で笑うんだよーと口を尖らせて言えば小平太と似ていると言われ、不服そうに眉間にしわを寄せた。
「はあー?違う違う、あいつが勝手に俺に似たんだって。ん…?いや、それもどうなんだ、俺はあいつほど暴君ではないはず…。」
なんて訂正してみるも納得がいかないようで、顎に手を沿えうーんと唸る。が、そんなことどうでもいいかと直ぐに諦めた。
それよりも今は出かけるのが最優先なのだろう。

「んじゃ、裏々山だな。さっそく出発するぞ!」
ニッと笑みを浮かべると同時、立ち上がった鴻の前に立つ。
そして「よいしょ」なんて掛け声と同時に、右肩を相手の腹部へと当てて背へと手を回し軽々と相手を肩に担いだ。
もちろん、相手に了承など取るはずもなく、そのままてくてくと陽気な足取りで歩き始めたのだった。



「…えっ?」
近江は一瞬の出来事に虚を突かれたような頓狂な声を上げた。
それからすぐに自分の置かれた状況を把握して「と、遠野先輩!」と慌て出した。

「先輩!俺、自分で連いて行けます!もう五年になったんですよ?お願いします。降ろして下さい。」
本気で抵抗すればどうにかならなくもないのだろうが、先輩を相手にそんな事をする気にもなれず、近江はせめてもの抗いで、遠野の肩の上でじたばたと身を捩る。


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