02




相変わらず暁人はじっと見つめ続ける。
己の視線に若干恥ずかしさを浮かべる表情にふっと目を細め微笑むと、どうかな、と笑った。

「五年生だったころの俺になら近づいたかもな?」

からかうように茶化す口調で言ってのけ、手を伸ばす。
ぽんぽんと頭を撫でて満足げに口端を吊り上げ笑うと、ずいっと顔を近づけにこりと笑顔を向けた。

「まだまだ近づけさせねーよ、お前らは俺の可愛い後輩だからな。」
それとも試すか?と自らの二の腕を叩いてみせる。
その表情は至極、楽しそうだ。



近江は一瞬きょとんとすると「ははっ」と思わず笑い声を上げた。
「本当、お変わりないようで安心しました。…いえ、やはり二年の歳月とは大きいのですね。先輩から感じる気配は、当時の頃よりもずっと圧倒されるものになりました。お恥ずかしながら、少々緊張しております。」
そう言って、照れくさそうに眉を八の字に下げた。

久方振りに会った緊張は遠野の茶目っ気により解れたものの、やはり彼の纏うモノは当時とは格段に違い、追いつこうと鍛錬を積もうと、なかなか差が縮まらない事を実感する。

「是非、先輩が滞在なさっておられる内に、一度手合わせ願いたいと思っております。」
近江はスッと背筋を伸ばし、遠野を真っ直ぐに見つめた。



「んでも、」
照れたような表情を見せる鴻に、ふっと暁人は目を細めて笑う。
「お前が卒業してどこかの城で働くようになったときは、差なんてすぐに縮まるさ。何、俺なんかに緊張することはねーよ、どこぞの暴君くらいに遠慮なくすればいいさ。」

それに自分などまだまだだと言って、けらけらと笑い声を上げた。
数年ぶりにあって緊張を見せている後輩の姿は暁人にとっては割りと新鮮で(というのも、彼の周りの人間が遠慮知らずなだけなのだが)可愛らしく微笑ましい。

「一度と言わず何度でも、好きなだけ遊んでやるよ。」
なんてニコリと笑みを浮かべるも、その視線はもちろん本気だというように、まっすぐ相手を見つめ返していた。



遠野のその真摯な眼差しを受け、近江は「宜しくお願い致します。」と、小さく頭を下げた。

「そこで本題なのですが…」
下げた頭を戻しながらそう続ける近江の表情は、今し方真剣に向き合っていた大人びたものとは別の、少々悪戯っ子のような瞳をしていた。

「本当は明日にでもと思いお伺いに参りましたが…。もし遠野先輩のご都合が宜しければ、この後裏々山で鎖鎌のご指南を賜る事は出来ますでしょうか?」
そこには年相応の、わくわくとした表情を浮かべた近江が居た。

「俺、周りの同年代より、その…力も体格も少し劣りますので。」
自身の欠点を恥じる為か、近江は少し目を伏せる。
「五年に上がる少し前から、力より正確さや俊敏さに重きを置くようになりました。」
元々飛び道具は得意分野だった近江は、手裏剣の類の他に、それらを利用して自分に合う武器はないかと模索中だと続けた。そして、その中の可能性の一つとして、鎖鎌の訓練も行っているという事を明かした。

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