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そんな言い方狡いです、歳の差は埋められないのに

来客用の部屋の前で居住まいを正した近江が、中に居るであろう人物に声を掛ける。

「遠野先輩、五年は組の近江鴻です。お寛ぎのところ申し訳ありません。少しお時間宜しいでしょうか?」



その声は確かに室内へ届いたらしく、中にいた暁人が気配を揺らす。

「お、どうした?入ってきていいぞ。」

遠慮するなと言う様に柔らかい声色で外にいるだろう人物へと言葉をかけると、読んでいた本をパタンと閉じた。
さて珍しい客人だと、暁人は一人小さく笑みを浮かべる。



「失礼します。」
近江は一言声を掛けると、スッと障子戸を開けた。

今は暮れ六つ時を少し過ぎた時刻。
近江は部屋の主に微笑むと、三つ指をついてお辞儀をする。
「ご無沙汰しております、遠野先輩。学園にいらしている事は聞き及んでおりましたが、ご挨拶に伺えず失礼致しました。…お元気そうで安心致しました。」

遣いなどで生活時間帯が噛み合わず、遠野の来訪を知っていたものの数日顔を合わす事の無かった近江は、久方振りに会った三つ年上の先輩に安堵の息をつく。



「相変わらずお前は綺麗な言葉遣いだな。」

くす、と暁人は小さく笑みをこぼした。
この後輩と居るといつになく穏やかな気持ちになり、自然と笑みを浮かべている。それがとても、心地よい。

「いや、気にすんな。五年にもなると実習とかで忙しいだろ?俺も俺で結構一箇所に居ることは少ないし、お互い様だ。
それより、鴻も変わりないようで安心したよ。いや、背丈や面立ちは変わったか。」

おいでと促すように座布団を出すと、じっと可愛い後輩を見つめる。
最後に会ったのは二年ほど前。さすがに二年の月日は人を変えるようで、あんなに小さくてかわいかったのになあと暁人は一人思い出に浸った。



勧められた座布団に、もう一度「失礼します」と断りを入れて近江が向かい合うように正座をした。

「ふふっ、俺がここに編入して来た当時の先輩の年齢に達しました…少しは先輩に近付けておりますでしょうか?」
じっと見つめられて、近江は少々気恥ずかしいようで小さく苦笑を浮かべた。

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