02




スッと障子戸を開けると、相も変わらず片付けられた室内が視野に入った。
広々とした部屋の、手前三分の一くらいに衝立が立てられ、奥三分の二の空間に布団が敷かれ、更にその奥に文机と押入れ等があった。

衝立の向こうからシュルっと衣擦れの音がする。
「悪いな、適当に入って来てくれ。」
そう促されて私は衝立の方へと歩み寄った。
衝立の向こう、布団の上で鴻が右の二の腕の包帯を替えている最中だった。
シュルシュルっと器用に化膿止めが塗られた麻布を宛がい、その上からまっさらな包帯を巻きつけていた。

後ろ髪を下で緩く一つに纏めた夜着姿。
その袷から右腕だけを引き抜いて、その白い肌を晒していた。
所々に施された治療の痕跡と薄くなった古傷、消毒や薬草の匂い、その中に混ざって湯上りの石鹸の香りもした。
それだけで私の心拍数が上がった。

「…私が巻こう。」
自身を誤魔化すように鴻の手から包帯を引き継ぐ。
「ありがとう。」
にこりと微笑むと、鴻が向き合うように座り直した。
(自分から言い出した事だが…目のやり場に困る。)
段々と意識してしまい、逸る鼓動と上気しそうな頬を悟られたく無くて、包帯に一点集中する。

シュル、シュルシュル

包帯の巻かれる音だけが響いた。
それに反して煩くドッドッドッと、私の心音が喉元まで競り上がって耳鳴りがした。
(意気込んで来たのはいいが、久し振りの二人きりで変になりそうだ。)
まさかここまで緊張するとは思わず、私は知らずに眉間に皺を寄せる。

「どうした、三郎。何かあったのか?」
心配そうな鴻の声が頭上に降る。
「はっ?」
包帯に集中して俯き加減だった顔を鴻に向ける。
すると、少し困ったように微笑む鴻と目が合った。
「眉間に皺が寄っているよ。…まだ、怒っているのか?」
まるで捨てられた子犬のように肩を落とす鴻が、やっぱり可愛くて抱きしめてしまいたくなった。


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