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「手入れ・・・ってどの程度から言うのか分かりませんが、そうですね。一応少し、していますよ。」
僕の質問に鴻君の答えが返る。
「へぇ〜、どこで教わったの?何を使って手入れしてるの?」
職業病とでも言うのか、ついつい僕が矢継ぎ早に聞いてしまうと、鴻君は一瞬逡巡して
「俺、タカ丸さんに廓出だって言ったことありましたっけ?」
と、くりんとした目で振り向いてきた。
あまりにも「今何刻?」と聞くかのごとく平然と言うので、僕は一瞬意味が分からず「えっ?」と間の抜けた声を出してしまった。

「あっ、タカ丸さんは編入してきてからそう長くは無いから、知る機会がありませんでしたよね、きっと。すみません。」
僕の反応を見て悟った鴻君は、出身の事が吃驚させる事だったのかと思い謝る。
「ううん!」
何に対して「ううん!」なのか自分でも良く分からずに頭を振る。
少なくとも謝られる様な事や、ましてや気分を害すような事を言われたとは思っていないよ、という事を伝えたかった。
けれど、それ以上何と言葉を繋げば良いか考えあぐねていると、ははっと小さく鴻君が笑った。

「惑わせてすみません。出身の事は少しも隠してはいませんし、五年や六年の先輩たちは大方知っています。俺もタカ丸さんと同じで途中からの編入なんですよ。」
「あっ、それ聞いた事あるよ!鴻君は二年生の途中からなんだよね?僕と同じ編入生だったって聞いて、親近感持ってたんだ〜。」
と、調子を取り戻して僕も笑む。
手入れをする手を再開させると、鴻君は再び前へと向き直す。
「俺は二年で此処に入るまでの数年を、廓の姐さん達に育ててもらいました。その間に仕込んでもらったというか。俺は見ての通り遊女ではないけれど、奉公人として人前に出る機会はあったから。表で仕事する以上は身なりをしっかりしなさいって。」
彼女達を思い出したようで、くすくすと笑い出す。
「まぁ、手入れの方法は、殿方に見初められる為に頑張る意地らしい姐さん達の努力なのでお教え出来ませんが、俺がしている程度は、姐さん達に比べればほんのささいなもんです。」



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