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君と繋がる糸が欲しい

鴻が帰還してからしばらく、怪我の治療やその見舞い、六年生たちの過保護な訪問やらのお陰で、なかなか二人になれる機会は無かった。
私たちも結局入り浸るものの、五年の誰かは必ず居るし、そもそも善法寺先輩がなかなかの曲者だった。
安静を理由にさっさと切り上げさせられるし、夜半も共にすることがあるようだし…甲斐甲斐しく鴻の素肌を晒して包帯を巻き直したりと…実に不愉快だ。
もし鴻に何かしたら、先輩だからって容赦はしない。

そこで論点がずれて行っている事に気が付く。
(いやいや、そうじゃなくて。…鴻は、私の事を本当はどう思っているのだろう。)
そんな事を最近考えるようになった。

今までは長年の片恋から少し歩み寄れた感覚と、そこに行き着くまでの経緯は何にしろ、鴻が私の口付けを受け入れてくれた喜びに舞い上がって失念していたが、私は「好きだ」という類の返事を貰った事が無かった。
しかも、予期せぬ展開だったとは言え、口付けを強請ったのも私、好きだと言ったのも私。
今となっては開き直って好いている態度も晒している状況だ。
だけど、鴻は受け入れてくれただけで、鴻自身からその類の意思を返された事が無い。

(もしかして、甘受してくれているだけで、特別な意味は無いのか!?)
そこに気が付いた途端、猛烈な焦りと不安が全身を苛んだ。
(善法寺先輩と仲が良いし、もしかして私の勘違いだったのだろうか…)
日々不安は募るが、鴻が帰って来てからこっち、二人きりになる機会が無く、触れる事は愚か、それすら聞く事も出来ていなった。

(今日からは自室に戻れると言っていた。今日こそ、聞くんだ。)
私はきゅっと唇を結んで、鴻の部屋を目指した。




「鴻、今邪魔して良いか?」
そう、中の主に尋ねる。
すると
「あぁ、入っておいで。」
と、穏やかな返事が返ってきた。

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