05




どくん、どくん、と僕の心拍が更に強く鳴る。
(これって、期待して良いのかな…)

「鴻、返事を、聞かせて?」
抱きしめていた腕の力を少し緩ませ、鴻の顔を覗き込んだ。
至近距離でぶつかる瞳。
鴻の瞳は不安げに、ほんの少し揺らいだ。
「…伊作先輩、お気持ちはとてもとても嬉しいです。ですが…」
そこまで聞いて僕は、目の前が暗闇に塗りつぶされる思いがした。

(も、もも…もしかして断られるのだろうか…。)

思わず俯きそうになった僕の顔を、慌てて鴻がその両手に挟んで阻んだ。
「ですが!俺、正直恋情というものがよく解っておりません。だから、上手く伝えられませんけど、ゆっくりと、でも良いですか?」
くしゃりとはにかんだように鴻が笑った。

えっ?えっ???
僕の思考が停止した。
えっ?断られたんじゃないの?でも、ゆっくりって?どういう事?

ぱくぱくと魚のように口を開閉するだけで声にならないでいると、僕の両頬を包んでいた手を、鴻を抱く僕の腕に滑らせた。
「前、勘右衛門が言っていたんです。“時間も場所も関係なく自分の頭と心をその人が占領し始めたら“恋”なんじゃないか”って。そして、“この人に触れたい触れられたいって思って、それが叶った時にはこれ以上に無い幸福が訪れる。”って。」
唐突に話し出した鴻は、そこまで言うと少しだけ目を伏せた。
「俺が保健委員会に入った理由は、前お話しした事ありましたよね。」
ふっと鴻が僕を見上げた。
そんな些細な仕草なのに、どうしようもなく僕の胸は震える。
「う…うん。薬草の知識を得られるからだけかと思っていたけど、その、僕の姿を見て…っていうやつだよね?」
なんだか照れくさくて、へにゃりと笑った。
そんな僕を見て、鴻もふふっと笑った。
「そうです。俺にとっては初めてだったんです。誰かの事を気になるなんて。それがどういった類なのかは、未だに分かりませんけど。でも…」
そこで一度きゅっと唇を結ぶと、ふぅ、と一つ息を吐き、意を決したようにしっかりと僕を見据えた。
「あの時、口付けが嫌で突き飛ばしたわけではありません。…自分がやろうとしている事を思ったら、無性にやる瀬なくなって…こんな自分を好いて貰う資格なんて無いって、恐くなったんです。」
ふるり、と鴻の睫毛が震えた。
「本当はとても、嬉しかったんだと思います…。」
だから余計に自分が許せなかったと、僕に罪悪を感じたんだと、ぽつりと鴻が続けた。


[ 165/184 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]



- ナノ -