04




「あの時は衝動とはいえ、突き飛ばしたりして申し訳ありませんでした!!」
凛とした声が部屋に響く。
「えっ?」
ぽかん、とするのは今度はこっちの番になった。

「俺、動転してしまって…。本当にすみませんでした。」
恥じ入るように、語尾が弱々しく届く。
「ちょっと待って、違うよ!そんなの気にしてないよ!顔を上げてよ!」
正気に戻った僕は、あわあわと鴻に走り寄り、その肩を掴んで上半身を起させた。
「僕はちっともその事は気にしていないよ。寧ろいきなり告白とか、その…口付けしてごめんね?」
顔を上げた鴻を見つめて、僕は力無く微笑んだ。
「…いえ、そんな…。」
珍しく、鴻がもごもごと口籠った。
「あのね、鴻。あの時の言葉は本心だよ。鴻には迷惑だったかもしれないけど、口付けも後悔はしていない。僕は、お前の事をずっとずっと好いていたんだ。恋慕として、ずっと。」
ドキンドキンと鼓動が鼓膜を震わす。
緊張の所為で、鴻の肩を掴む手に力が入ってしまった。
それでも視線を逸らす事はなく、鴻を見据えて全てを伝える。

「鴻が好きだよ、今もずっと。」

全部全部届いてしまえば良い。
そんな風に思って、ぎゅっと鴻の身体を抱きしめた。
傷に響かないように、真綿を包むように優しく、けれどしっかりとこの腕に抱いた。
「…っ」
ぴくり、と鴻の肩が跳ねた。
「ごめんね、でももう隠しておけなかった。鴻に知って欲しかった。けれどそれは僕の我儘だから…嫌なら振り払って。」
願い入る様にぎゅうっと、更に抱きしめる腕に力を込めた。
すると、ゆるゆると僕の背に鴻の腕が回される。

びくり、と僕の身体が跳ねた。
引き剥がされるのか、そうじゃないのか、鼓動の拍動が速すぎて耳鳴りがしそうになる。
心の臓が口から出るんじゃないかとか、それよりもこの拍動は確実に鴻に届いちゃっているんだろうなとか、どうでもいい事までぐるぐると頭を廻った。

「ははっ、先輩の心音、凄いですね。俺にまで伝わってきますよ。」
僕の背に回された腕は、引き剥がすなんて事はせず、そのままやんわりと密着を増すようにと力を込められる。
そして、くすぐったそうに少し身を捩った鴻から笑い声が洩れた。

「しょ、しょうがないじゃない。凄く凄く緊張しているんだもの。それこそ心拍が止まるんじゃないかってくらいに。」
恥ずかしくて拗ねたように伝えれば、くすりと、胸中で再び鴻が笑った。
「ありがとうございます。そこまで想って頂けるなんて…何と言葉に表したら良いか…。」
言葉を見つけるように区切りながら話す鴻の頬は、ほんのりと朱に染まっていた。


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