02




時刻は夜の五つ半頃。
風呂も済ませ、各々が自由に過ごしているであろう時刻だ。
僕は五年長屋に足を運ぶ。
大丈夫大丈夫と心を落ち着けるよう、胸中で唱えながら。

鴻の部屋の近くまで行ったら、中から竹谷、尾浜、久々知、不破、鉢屋がぞろぞろと出てきた。
「?」
疑問を浮かべていた僕の横を通る時「鴻の察知は本当すげぇな!」と竹谷が興奮した様子で尾浜を振り返った。
「そうだね。善法寺先輩、今晩は。…くれぐれも、俺たちが近くに居る事をお忘れなく。」
にこりと微笑む尾浜の顔には、何やら仄暗い影を感じた。
「う…うん?」
僕は曖昧に微笑んで返事をする。
続いて久々知がぺこりとお辞儀をし、「今晩は、善法寺先輩。」と不破がにこりと微笑んだ。
「今晩は。」
僕も挨拶を返すと「鴻を泣かせたら、許しませんから。」と、尾浜同様、笑っているのに全く笑っていない笑顔が返された。
ひくり、と僕の口角が笑顔のまま引き攣った。
そして最後に、鉢屋が「鴻が少しでも貴方を望まなければ、奪いますから。」と、しっかりとこちらを見据えて、言った。
「…うん。」
意志の籠るその瞳を見つめ返し、僕もしっかりとした口調で返した。

…というか僕、バレバレだったのかな?
なんとも情けなくて、苦笑が零れた。

鴻の部屋に居た五年生たちを見送ると、僕は鴻の部屋の前まで進んで足を止めた。

「鴻?僕だけど、今大丈夫かな?」
中の主に声を掛けると「はい、お入り下さい。」という声が返ってきた。

スッと障子戸を開けると、こちらにきちんと正座をして座る鴻の姿が視界に入った。
鴻の向かいには、既に座布団が置かれ、来訪を知っていたようだった。

「遅くにごめんね。あれ?もしかして、予想されてたのかな?」
ふふっ、と用意された座布団に座り苦笑を浮かべると
「いえ、先程伊作先輩がこちらに向かって来られる気配を感じたので。委員会関係で何かあったのかと思いまして。」
と、鴻がにこりと微笑んだ。


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