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嘘は笑顔で塗りつぶして


鴻が飛び出して行ってしまってから数日。
忍術学園は鴻の不在に少々ざわめき立ったものの、先生方のご配慮と上級生が下級生を宥めて治まってはいた。

ここ保健委員会も例外ではなく、数日姿を見せないという事は今までに何度かあれど、僕たち上級生の(隠そうと努めても隠し切れていない)疲労の色から読み取ってしまうのか、落ち着かない様子だった。
それでも僕たちは、彼らを安心させる為に嘘を吐き通すしかなかった。

「ほら、乱太郎、手が止まっているよ。」
包帯を巻き直している最中、ぼんやりと庭先を眺める乱太郎に、僕がやんわりと注意をする。
「…善法寺先輩、近江先輩は、本当にただのお遣いなんですよね?」
不安に滲む瞳が僕を見上げる。
その声に、伏木蔵も乱太郎にそっと寄り添った。
「本当だよ。大丈夫、すぐに帰ってくるよ。」
僕は乱太郎と伏木蔵の頭を順番に撫でて微笑む。

「そうはおっしゃいますが…その、なんだか、変です。」
きゅっと唇を噛んだ左近が、ぼそりと呟いた。
「心配掛けてごめんね、でも、大丈夫だよ。」
大丈夫、と繰り返して左近に緩く微笑んだ。
それ以上言葉が紡げない様子で、不承不承ながら「…はい。」と左近が零した。

「早く、帰って来て欲しいですね。」
数馬も薬草の籠を大事そうに抱えながら、ひどく弱々しい笑みを浮かべて僕を見つめた。
「うん、そうだね…。」
僕はそれだけを答えると、乱太郎が見つめていた庭先を追って眺める。

いつもなら此処に鴻も居て、僕たちと一緒に過ごしているはずだったんだ。
「良い天気だな〜」なんて鴻が言いながら、包帯を日干しにして。
…思わずそんな幻影を見そうになって、じわりと涙が浮かびそうになった。

(駄目、泣いては、ダメ。)

僕は平常心を装うように、ふっと短く息を吐くと「さぁ、僕たちは鴻が帰ってきた時に、美味しいお茶を入れてあげられるように、委員会が終わったら茶葉を買いに行こうか。」
と、にっこりと微笑んで後輩たちを振り返る。

「わぁ〜、それ良いですね!」
「…保健委員会全員で出掛けるなんて、すっごいスリル〜」
ぱぁっと瞳を輝かせた乱太郎と、別の所に楽しみを見出した伏木蔵が僕を見上げた。

「賛成です。」
「まぁ、異論はないです。」
にこりと微笑む数馬と、ぶすっと拗ねたような面持ちの左近も同意してくれた。

各々の反応に、ほんの一時の安らぎと、本当の笑みが浮かぶ。

「じゃぁ、さっさと仕事を終えないとね。」
そう切り出して、僕たちは作業の手を再開させた。




嘘は笑顔で塗りつぶして

(―――笑って、待ってるから。)





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