03




「皆ごめん、ごめんな…ごめん。」
崩れるように、縋るように泣き出した私たちに、鴻は何度も何度もごめんと詫びた。
そして、一度深呼吸をすると
「俺ね、俺…殺せなかった…よ。」
と、ぽつりと呟いた。
“殺せなかった”人物というのが、鴻の仇討ちの相手だという事はすぐに分かった。
私たちは溢れる涙もしゃくりあげる嗚咽も気に留めず、ただただ紡がれる鴻の言葉にだけ耳を傾けた。

「あいつの喉笛に忍刀を突き付けた時にさ…お前らの顔が浮かんだんだ。」
それだけを言うと、鴻はゆっくりと瞼を閉じた。

「あいつさ、涙でぐちゃぐちゃになった顔で言うんだよ。何でも望むもんくれてやるから、命だけはって。」
はっ、と鴻は小さく、自嘲するような、哀しそうな、どちらともつかない吐息をはいた。

「自分の命には必死なのにさ、あいつを守る為にボロボロになってる城忍に、何やってる、お前等は儂を守るのが仕事だろ、早く助けろ、儂の為に死ぬのが役目だろうがって、言うんだぜ?」
そこまで言うと、閉じていた瞼をゆっくりと持ち上げた。
そこには、そこに来るまでの人間たちを悼むような色を湛えていた。

ふぅ、と小さく溜息を吐く。
「…馬鹿馬鹿しくなっちゃった。憐れだなって。そうやってでしか人の価値を見出せないなんてって。」
そこで一旦、鴻は大きく息を吸った。
きゅっと唇を結んで、痛む身体を圧して上半身を起き上がらせた。
慌てて私たちは止めようとしたが、ふるふると緩く頭を振り、強い意志の籠った瞳で見据えられたら、何も言えなくなった。
「ありがとう、でも、きちんと皆の顔を見て言わせてほしい。」
痛みに耐え、脂汗の浮かんだ額を善法寺先輩が拭った。
そして、自身で支えられないであろう鴻の身体を、私と兵助が支えた。

「そう思うのと同時に…お前たちや先輩たち、先生たち、勿論後輩たちも…父さんも。母さんだって俺の為に…死ぬ事を厭わないって、助けてくれるんだって思い知った…。」
そう言うと、鴻の瞳が僅かに伏せられた。
「そしたらさぁ、殺せなくなっちゃった…。お前たちに顔向け、出来なくなっちゃうもんな…。」
ふるり、と鴻の睫毛が震え、唇が戦慄いた。



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