02




「気付きましたか、近江君。」
新野が意識を取り戻した近江に、そっと声を掛ける。
「…、っ。」
近江は声を出そうも、意識を取り戻した直後で唇がうまく動かせずにいる。
ぱちぱちと、緩慢ながらも瞬きをした近江を見て、五年生がぼろぼろと涙を流しながら唇を戦慄かせた。

「生きていてくれて、本当に良かったです。」
新野が心底安心したように、穏やかな笑みを浮かべた。
「では、私はこの事を学園長先生や、担任の先生方に知らせてきます。くれぐれも無理をしないように。皆も、無理をさせないように。」
そうにこりと微笑むと、保健室を五・六年生だけにしてくれた。

「ざ…ざっ、とさんが、連れて…っ、きて、くれたんだよ。」
ひくりと喉を鳴らせて、善法寺が近江の今在る経緯を教えてくれた。
「…そう、ですか。」
掠れた声で、近江がほんの少し目元を綻ばせた。



その姿を、そして鴻本人の肉声を耳にした途端、私は堰切ったように泣き出してしまった。
「うっ…うわぁ〜〜〜ふっ…うぅっぐすっ、うぅっ」

耐えられなかった。
もう、一寸も堪えられなかった。

人目も憚らず私は、泣いた。
大声を上げて、泣いた。

帰ってきてくれた。
鴻が、私たちの元へ帰ってきてくれた。
その事実が信じられなくて、嬉しくて。
わんわんと声を上げて、泣いた。
つられて声を出して泣き出した兵助・雷蔵・勘右衛門・八左ヱ門と共に鴻に飛び付いた。



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