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絶望を奇跡にかえて

ゆらり、ゆらりと、たゆたうような感覚がする。
それはまるで水中を漂うような、深緑の風が凪ぐような、そんな心地。
身体全てが弛緩して、指の一本も動かせなかった。
果たして自分は起きているのか、眠っているのかも判別できず、ただ瞳は瞑っているのだろうと思った。
暗闇に塗りつぶされ、何も見て取る事が出来なかったけど、不思議と恐くはなかった。

そんな中、微かに自分を呼ぶ声が聞こえた気がした。
「…?」
声のした方へ振り向こうも、やはり身体はぴくりとも動かなかった。
しかし、その自分を呼ぶ声は段々とハッキリしたものとなり、すすり泣く声や嗚咽も混ざっている事に気付く。

(―――雷蔵、また泣いているのか。泣くな。)
そう苦笑を浮かべて動かしたはずの唇は、やっぱり動いてはくれなかったようだ。

動け、動け、と自身に命ずる。
俺を呼んでいるあいつ等の為に、動け。
俺を想って泣いてくれているあいつ等の処に行きたいんだ、と。
俺は、誰かも分からない誰かに願った。

(頼む、生きたいんだ。)

そう、グッと力を入れた瞬間、ふわっと意識が浮遊した。
段々と視界に差し込んでくる光、明確になってきた聴覚、自分を呼ぶ声、消毒などの独特の匂い。
俺は、力無く震える重たい瞼を、ゆっくりと持ち上げた。






そこに映ったのは、見慣れた忍術学園の保健室の天井と、俺を覗き込んで涙の雨を降らす、三郎・雷蔵・兵助・勘右衛門・八左ヱ門。
その後ろから、堪えるように唇を結んだ食満先輩・七松先輩・中在家先輩・立花先輩・潮江先輩、そして、ほとほとと涙を流す伊作先輩が居た。

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