03





数度瞳を瞬かせて「いやん。」と言ってみれば「相変わらず読めない子だなぁ」と可笑しそうに笑った。
つられて私も瞳を細める。

「さ〜て、何だか綾を手篭めにしようとしているような格好になっているし、そろそろ出て授業に行くか。昼休みも終わる頃だろうしね。」
そう言って頭上を見上げる鴻先輩の背中に腕を回す。
ぎゅうぅぅぅっと正面から抱きつくと、大きく身長差が無い私たちなので上手い具合に鴻先輩の肩に顎を乗せられて程良い密着が出来る。

「甘えただなぁ、お前は。」
そう優しく漏らすと、ぽんぽんと頭を撫でてくれた。
心地が良い…。

「なぁ綾、俺、蛸壺に滅多に入った事ないから知らなかったけど、ここから見える空って凄く綺麗なんだな。まぁるく切り取られて、その丸の中だけが揺らいでる。なんだか水の流れみたいだ。」
流れる雲をくすくすと楽しそうに見上げている。
「勢いつけてぽーんと出たら、そのまま空へと落ちて飛べそうじゃない?」
そう言う鴻先輩はどこかわくわくした様子で私へと視線を戻した。

…さっきは“空へ落ちる”という感覚が、あんなにも焦燥を掻き立てる存在だったのに、この人はそれすらも楽しいものだと、心躍らせる要因に成り得るのだと言うのですね。
なんて楽観。なんて澄んだ心。敵わないなぁ。

「ぽーん。とは、また…気前の良い事ですね。」

そう私が言えば、鴻先輩は一瞬きょとんとした後「ぶはっ」と吹き出し笑った。



広くて、青くて、危険の溢れた、そんな空に放してください

(貴方と共にだったら、一緒に落ちるのも恐くないのかもしれませんね。)






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