01



慈悲深きその手は血塗られて

初めてあの子に会った時は、正直少々驚いた。
プロ忍ばかりの大人たちの中で劣る事無く、いや、劣るどころか大人をも凌ぐ程の戦術と正確さで、淡々と仕事を遂行させていっていた。
その子ども、もとい近江鴻君は、その小柄さを逆手に取り、巧みに飛び道具と自身の技術を使って忍務をこなし、その姿は私に興味を持たせるのに十分だった。

それからというもの、私は鴻君が戦場に赴くと知れば、時折その姿を見に足を延ばす事も増えていった。
(まぁ、情報を寄こしてくれるのは、部下の尊や陣左たちだけど。こんな上司を持って可哀相に。)
くつりと、思わず笑みが込み上げる。

そこから彼自身と知り合う機会を作り、彼は避けるように隠すようにとはしていたけれど、おじさんをみくびってもらっちゃ困るなぁ〜。
しばらくして、私は彼の目的を知る事となった。
なるほど、彼の本来の目的を知れど、私にとってそれ自体はどうでもいい事だった。

ただ私の興味を引いたのは、非道に成りきれない彼本来の魂。
頑なに貫いてきた意志と相反して存在する慈悲。
そしてそれ故に生まれる甘さ(現に私を蔑ろに出来ないと結局は許してしまっている)、それにより時たま見せる迷子のような瞳。

鴻君、何を迷っているの?
本当に望んでいる事は何なんだい?
私はそれを知りたい。

ずっと追い求めてきた人物と相対した時、鴻君、君はどうするのかな?



慈悲深きその手は血塗られて

(―――さぁて、戦火の口火は切られた…と。)





[ 145/184 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]