04




呼吸もままならない程の締め付けを感じ、酸素を取り込もうと唇を開いたら、
「…っ、」
涙が零れた。
ぱらり
雷蔵を模した面に、涙の筋が走る。
ぱらりぱら、ぱら

それを引金に、後から後から溢れ出した。
鉢屋に引き摺られ、堪え切れずに涙を零した尾浜の肩を竹谷が抱く。
「俺は…」
口を開いた近江の唇が、微かに震える。
「父を殺した者の事を調べ、追い、真実を知った。…それは、俺に仇討を決意させるには十分だったんだ。」
スッと近江は視線を上げると、自身にしがみ付いたままの不破の肩を抱いて共に立ち上り言葉を続けた。
「忍術学園に入り、その情報網をもって奴らに近付き懐柔することが出来た。後は最良の時を窺い見ていたんだ。」
「…それが、今夜だと言うのか。」
久々知が、血が滲むほど唇を噛みしめる。
「鴻、他に選択肢は無いのか?」
哀願するように竹谷が呻く。
その様子を見て、ふるりと近江の睫毛が揺らいだ。

「…ずっと、それを成し遂げる為だけに生きてきた。だけどお前たちに出会って…正直揺らいだりもした。」
くすっ、と近江は自嘲するような笑みを浮かべる。
「誰かに想われ、誰かを想う事がこんなにも尊いものだなんて知らなかった。人と人は繋がり支え合って、分け合いながら生きて、それを知らずにいる誰かと教え合っていくんだって知ったら…自分には足りないモノが多すぎて恐くなった。それと同時に、俺と分け合おうとしてくれる皆が堪らなく愛おしくなった。」
「だったら、もういいじゃねぇか!!そんなもん…仇討の怨みなんかなくったってお前の生きる糧は出来たって事じゃねぇか!!俺たちが…居るじゃねぇか・・・」
鼻の奥がツンとなって、竹谷の語尾は弱くなった。
「そうだな…だけど、」
そこまで言って近江の、不破の肩を抱く手に力が入る。
「痛ッ、」
と不破が微かに声を上げるのと同時に、不破の両手を捻り上げて身動きを伏せる。
片手で不破の動きを抑え、もう片手で苦無を不破の喉元に宛がう。
いくら不破が力強さで群を抜いていようと、得物をピタリと頸動脈に当てられた状態では身動きが叶わなかった。

ザッ、と反射的に構える竹谷・尾浜・久々知、そして…鉢屋。
部屋の外でも、ピンッと空気が張り詰めるのが分かった。



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