03




「…だからって、自分が居なくなったって大丈夫だなんて思ったの?」
いつの間にか前へと歩み出ていた尾浜が、普段の穏やかさが嘘のように怒りを露にし、殴った拳をギリリッと握り締めていた。
「思ったのッ!?」
叫ぶような痛切な声で再度問う。



「………思った。」



力無く俯いた近江が答えた。

その答えを聞いた瞬間、不破が近江に抱き付く。
ぎゅぅぅぅっと命一杯の力を込めて。

「ら…雷蔵、痛い…」と、優しく宥めるように不破の肩に触れる近江。
「―――ッ、」
不破の喉から引き攣った声が洩れた。
「し…死んでも良いなんて思ってる奴がッ…くっ…このくらいで痛がらないでよ…ッ!!」
堪らず涙を溢す。一度零してしまった涙は、後から後から止めどなく溢れた。

「“生きる”っていう選択肢は…無かったのか?」
久々知が以前近江の部屋で見せた、怒りと哀しみをない交ぜにした表情で呟く。
「復讐する為に、その為にならいつ死んでもいいように生きるのではなくて、お父上が守ってくれた命を、朽ちる時が来るまで生き延びようって、思えなかったのか?」
鉢屋がくしゃりと哀哭に満ちた面持ちで問う。

(これでもう淋しくないと呟いた言葉は、肉親が出来た事であの家族の一員になれたという喜びではなく、自分が居なくなっても血を分けた肉親が母には在るという安堵だったなんて。)
今更に理解する自分に苛立った。
優しく涙を流したあいつを、私を受け入れてくれたという事に舞い上がって見誤るなんて!浮かれていたあの時の自分を殴り付けてやりたいッ!!

ギリッと奥歯が唸る。

どうしたら伝わるのだろう。
お前が親や私たちを想ってくれているみたいに、私たちにとってもお前は唯一無二であるという事を。何事にも執拗な頓着を見せないお前は、己の命にまでそうなのか!

悔しい!
もどかしい。
哀しい…。




………痛い




胸の最奥から軋む音がした。



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