04




「わっ、」
均衡を失った僕はそのままよろけて、まだ片付けられていなかった擂り鉢に蹴躓いて後ろへと倒れ込む。
ドサッという僕の倒れる音とガチャガチャンという擂り鉢のひっくり返る音、そしてむわっと広がる薬草の匂いが漂った。
「痛たたた…。」
身体を起こすと、戸惑いと後悔に苛まれた表情の鴻と目が合った。
「俺は…」
鴻の唇が微かに戦慄く。

「貴方に想われる資格なんて、ありません。」

沈痛な面持ちで己の両の拳を握りしめる鴻の姿は、迷子の恐怖を堪える子どものそれのようで、やる瀬なくなった。

「…失礼します。」
ガラッと廊下への戸を開け一礼したかと思うと、鴻はぎゅっと目を瞑り足早に廊下を駆けて行く。
開け放たれたままの廊下への戸。
そして同じく開け放たれたままだった庭への戸口が、カタン、と揺れた。



明日に足りない君の命へ

(―――どうしたら、お前をそこから救いだせるの)





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