02




「ご心配お掛けしてすみませんでした…。」
調合に使っていた薬草を棚に仕舞い始めた鴻が先に口火を切った。
「…さっきの話し、本当なの?」
僕は少しの間逡巡した後、鴻の横に並んで立つ。
「本当ですよ、お巫山戯が過ぎただけです。」
にこりと微笑むも、決して僕の方に顔を向けることはなかった。
「違うよ、そっちの事じゃなくて。…“仇討を成し遂げて死ぬつもり”っていう方。」
びくりっ、と鴻の指先が震えた。
「何を…、あれも雑渡さんの戯言ですよ。」
それでも気丈に振る舞い、何でもない事のようにシラを切ろうとする。
(でも、誤魔化せないよ。僕はずっとお前を見てきたんだから。)

「…鴻、お前はこんなに嘘が下手だったっけ。動揺するなんて、らしくないね。」
善法寺が弱々しい笑みを浮かべて近江の手を掴む。
薬草を仕舞っていた手を中断させられた近江は、観念したように溜息を吐いた。
「嘘ではありません。“死ぬつもり”はありません。」
ゆっくりと顔を上げた近江の表情は、無に近かった。
じくっと、善法寺の胸が軋んだ。

「けど、“死ぬ覚悟”である事は事実なんでしょう!?」
思わず掴む手の力が強くなった。
動いたか否か分からない程微かに堪える皺を眉間に寄せたものの、近江は微動だにしなかった。
「鴻の何を知っているわけじゃないから…こんなこと僕に言えた義理なんかないけど。けど!…けど、僕は鴻にそんな所に行ってほしくない…。」
語尾の消え入るような声で善法寺が懇願するように呟く。
「伊作先輩、忍を目指している以上、いかなる時も“死ぬ覚悟”を持って生きているのは常と変りません。貴方だってそうでしょう?」
近江は淡々と答える。
「そうだけど!それとこれとは違うじゃない!」
挿げ替えようとしているのか、噛み合いきらない返答を寄こす。
「忍務や主君の為ならって話しでしょう?」
「俺にとってこれも忍務です。」
「けど、今のお前はそこに私情が入っているじゃない。…自分でも通らない事だって分かっているんでしょう?」
ぐっと、近江を見据えて善法寺が言い切る。



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