03




ピシッ、と一瞬にして空気が凍りつく。

「…それを俺に教えて、貴方の何になるんです?」
擂り鉢から視線を上げることなく、近江が低く呟く。
「うん?何も?ただ、興味があるんだってば。」
近江の様子を諸共せずに、くつりと喉を鳴らすのが分かった。

「俺が怒りに呑まれるか、自滅するか、にですか?」
スッと目を細めて、酷く冷えた瞳が雑渡を捕える。
「…あのねぇ、君は私を何だと思っているの?酔狂な奇人じゃないんだよ?」
雑渡は心底可笑しそうに、くつくつと肩を震わせる。
その様子が既に狂気じみているのだが、雑渡の主張は違うらしい。

「君が何を選ぶのか、だよ。」

そう言うのと同時に、雑渡は不意に近江の腕を強く引いた。
「…っ、」
突然の事に均衡を崩した近江は、雑渡の胸中へと引き入れられる。
「本当、この話題になると余裕なくなるよね、君。」
逃げられないように近江の手首を後ろで交差させて抱きしめる。
他愛のない拘束のようで、体格差と力の差があるため近江の身動きは叶わなくなった。
「離してください。」
近江は身を捩って逃れようとする。
「ん〜、駄目。まだ話しが終わっていないよ?」
更に身動きを塞ごうと、そのまま雑渡は近江を押し倒す。
ドサッと倒れ込む音に混ざって、「わぁ〜」と誰かが廊下で転んだ声が聞こえた。

「話す事も貴方から聞く事もありません。これは俺の問題です。放っておいて下さい。」
雑渡に組み敷かれた揚句両手を捻じあげられ、自由を奪われた近江は苦虫を噛み潰した様な表情で低く唸る。
その表情に恍惚とした雑渡が、包帯などに覆われた顔からでもハッキリと分かるような笑みを浮かべた。

「その顔たまんないねぇ。」
器用に近江の両手を片手で拘束し、空いた手でその頬を撫でる。
「今夜、我がタソガレドキ城忍軍は攻め入る為の準備を整えた。鴻君はどうするの。」
疑問形のようで疑問形ではない口調の雑渡が目を細めて近江を見つめる。



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