02




ぞくぞくぞくっと雑渡の背に快楽が走る。
(ん〜、悦い顔。)
にやりと、包帯と覆布に隠された雑渡の口角が上がった。

「お茶を、どうぞ。」
座布団に座っている雑渡の正面に正座した近江は、静かな手つきで湯呑を差し出す。
その運ばれた湯呑には、善法寺と鶴町が雑渡の為に用意したという「ちょっと粉もんさん」
という名前が書かれていた。
それを見つめ、何度も目にしているはずなのに、雑渡が再び目元を柔らかく綻ばせた。

「雑渡さんこそ、伊作先輩や伏木蔵にはそのような眼差しをなさるのに、どうして俺にはしないのです?」
今度は近江が問う。
その表情と「してくれないのです?」と尋ねない辺り、別段二人のような眼差しが欲しいわけではない事を暗に示した。
「それはねぇ、彼らとは別の興味を君に抱いているからだよ。」
雑渡がくつくつと肩を震わせて嗤う。
その光景を見つめていた近江は、ふぅっと溜息を吐いた。
「…だから、ですよ。」
眉間に皺を寄せて近江が呟いた。
そのまま近江はスッと半身をずらし、再び薬草を擂る作業を再開させた。
まるで、心落ち着かせるように、無心になるように。
そんな風に雑渡には見えた。




「今夜、だそうだよ。」




たった一言。
主語も無く、ただ一言だけ雑渡が告げる。



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