02




俺が編入する少し前に母親の見請け話が舞い込んだのは事実だ。
やっと母が身を売らずに済むようになる事、そして再び誰かを愛せたという事に俺は喜んだ。
父亡き後、母は店主や他の遊女たちに頭を下げ、時に苦境に立たされようとも俺を守り育ててくれた。その母の再婚を反対する意などある筈も無くて。
しかし、事はそう簡単では無かった。
俺は実子ではなく親戚の子どもという事になっている。その為、相手は母が独り身で初婚であると信じて疑ってはいなかった。
このご時世、嫁ぐには遅い年齢で、更に瘤付きだと知れれば破談になる事は目に見えていた。ただでさえ遊女というだけで良い顔をされないのに、この上悪条件が重なれば、たとえ旦那となる人が納得しようとも、周囲が認めはしないだろう。
俺は、旦那となる人が母を愛し、母も旦那となる人を愛しているならば纏まって欲しかった。しかし、母は俺を独りにさせるくらいなら縁談を断ると言い出した。
考えあぐねた結果、若旦那の援助もあり編入が可能だと見通しが付いた折に、忍術学園へ行く事を母に話した。
そこで卒業まで寝食を共にし、後にどこか住み込みで就職するつもりだと。
最初母は戸惑い反対をしたが、説得と縁談を破棄して欲しくないという俺の思いを受け止めてくれ、漸く首を縦に振ってくれた。

その後、引き取った親戚の子という名目で旦那となる人と顔を合わせ、二人が互いを慈しみ合っている事を感じ安堵した。
母は長期休みには戻って来る事を俺に約束をさせ、晴れて二人は夫婦と成り、俺も祝福をもって忍術学園へ編入する事が出来た。



優しさが滲んで消えない

(―――こう振り返ると複雑に見えるけど、沢山の人の好意に生かされているんだと、改めて実感した。)





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