02




「恋い慕う…かぁ。ん〜、きっとそれって年齢だったり環境だったりで形を変えるから、これ!っていう決定的なものはないと思うんだ。」
尾浜は視線を朱に染まり始めた夕暮れに馳せて言葉を選ぶ。
「幼い頃は、ただ純粋に好きって気持ちだけでずっと一緒に居るんだって信じていられたけど、やっぱり年齢を重ねれば立場とかでそれが叶わない事もあるだろう?」
ふっと、尾浜は視線を近江に合わせる。
「…そうだな。俺の両親はそうだった。」
懐かしむように愁いを帯びた目元が、少し綻ぶ。
「例えば一緒に居れなくても離れていても、その人が元気でいるか、幸せでいるか、今何をしているのかとか、時間も場所も関係なく自分の頭と心を占領し始めたら“恋”なんじゃないかなぁ。」
のほほん、と尾浜がお茶を啜る。
「それが募って、この人に触れたい触れられたいって思って、それが叶った時にはこれ以上に無い幸福が訪れる。好いた子との口付けは、そういう気持ちだったよ。」
茶の器をころころと手の平で遊ぶ。

「好いた相手に触れる事を許されるのは、とても幸福で、気持ちが良いものだよ。」
にっこりと微笑んで、俺は鴻の前髪をサラリと梳く。
そのまま頬を撫でつければ、鴻は緩やかに瞳を閉じる。
(好いた相手に触れる事を許されるのは、とても心地が良くて、だけど少しだけ酷い気持ちも孕んでしまう。)
お年頃ですからね〜と、俺は自分に言い訳をして苦笑を浮かべた。

「うん…。」
何か納得したのか、鴻は目を開けると一口お茶を啜る。
俺もそれにならってお茶を飲んでいると
「でも俺、触れる触れてもらうの幸いは、勘にも感じるよ。」
と、とんでもない事を言い出した。
「ぶふぅっ!!」
俺は、本日二度目の盛大なお茶吹きをしでかした。
「げほっ、ごほっ!!もぉ〜〜〜!!解った様で解ってないんだから〜。」
俺は眉を八の字に下げて口元を拭う。
「まぁ、鴻らしいといえば鴻らしいけど。」
先程と同じ台詞を、今度はじと目で言う。
「本っ当お前には敵わないや。…子ども!!」
精一杯の紛糾した想いをぶつける。
そのまま鴻の手を握り立ち上がった。



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