01



手を繋いで歩く事だけが俺たちに出来る唯一の、

「…勘、初めての口付けって、どんな気持ちだった?」
「ぶほっ!!」
俺は思い切り飲んでいたお茶を吹き出した。
「えっ!?な…なに、何だって?」
鴻が唐突に、それも彼に似合わぬ問いを投げてきた。

普段の鴻は色事に興味を示す事もなく、自らどころか話題で問われてやっと答えるか否かというくらいだ。
そんな鴻の驚くべき質問に、俺は目をぱちくりとしばたたかせた。
「…今、何て言ったの?」
信じられなくて再び問い返す。
けれど鴻は改めてまた口にする気は無いらしく、ふいっと顔を背けてしまった。

今は、鴻が薬草の調達に町へ出るというからそれについて来た帰りだ。
冷たいお茶でも飲んで帰ろうと入った茶屋の、店外に置かれた長椅子に座りお茶を楽しんでいた所だった。
「ごめんごめん、聞こえたけど、びっくりしちゃって、つい。」
俺は苦笑を浮かべて宥める。
「いや、俺も変な事聞いて悪かった。」
バツが悪そうに鴻が視線を泳がせた。
「何、どうかしたの?」
そう先を促せば「勘は、好いた子との口付けだったって言ってたから、どんな感じだったのかなって、思って。」
歯切れ悪く鴻が答える。
「鴻、恋い慕う相手でも…出来たの?」
じくっと痛む胸を押さえて、問う。
「えっ?あ、や、俺…そもそも恋い慕うって気持ちがどういうものなのか、よくわからないんだ。」
と、ぽつりと呟く。
なるほど、鴻は色に長けているようで、本人はそれ自体にはあまり関心を持ってはいない。だから初心かと思えば、そういうわけでもなく丁寧に接する。
という、面白い感覚の持ち主であることに納得した。

出身柄、行為そのものや扱いには手慣れているが、そこに恋情などの胸中を乱される要素がないからどこか浮世離れしているように感じるのか。と尾浜は一人得心した。
「鴻らしいといえば鴻らしいね。」
尾浜は柔らかく笑みを浮かべた。

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