02




「そう、か。悪かった。こそこそして…」
近江はゆっくりと目を伏せた。
「違う!こそこそしていた事を怒っているわけじゃないって、分かっているだろう!?」
久々知は勢いに任せて近江の肩を掴む。

歯痒い!
この感情をどう言葉にしたらいいんだ!
忍務に行っている事も、火薬を使用しているだろう事も知っていたはずじゃないか。
…いや、“知っている気”になっていただけだと思い知らされた。
まざまざと現実を突き付けられた途端に抱いた、この嫌悪にも似た腹立たしさ。
それは俺自身にも、そして鴻へも、だった。
だけど、それよりも遥かに鴻が大切で大事で…何ものにも代えがたい存在である事が伝えられない。伝えきれない。どんな言葉をもっても。

久々知は唇を戦慄かせた。
「…そういう事を言いたいわけじゃないって、分かってるだろ。」
情けない事に、同じ事しか出て来なかった。
久々知は掴んだその肩に顔を埋め、肩を震わす。
「兵助、それは頷けない。俺は俺の意思で引き受けているんだ。その材料をお前からなんて、買えない…。」
自身の肩に乗せられた久々知の頭に、近江は頬を寄せた。
「買えない。」と、近江はもう一度、拒否を口にする。
ガバッ!!と久々知が顔を上げた。
その双眸には、零れ落ちんばかりの大粒の涙が張っていた。

「俺から買う事が条件だ。それが出来ないなら、行くな。」
ぼろり、と堪えられずに涙が落ちた。
「俺にもその罪悪を、分けろ…。」
肩を掴む手を、そのまま鴻の背に回し抱きしめた。
ぎゅぅぅぅっと、どうか想いが届きますようにと、願いを込めて。

お前がその手に抱く罪悪を、俺にも分けろ。
火薬を渡すこの手も同罪だと、お前だけの罪ではないと言わせてくれ。
お前が承知尽いての事でも、自ら望んでの事ではないじゃないか。
それを己だけで背負うなんて。馬鹿だ。

縋るように抱きしめる俺の背を、ぽんぽんと鴻が撫でた。
宥めるように、優しく優しく。幾度も幾度も。
それでも、頷きの返事が返される事は無かった。

この優しい男が、自分の与り知らぬところで苦しんでいるんだと思ったら、また涙が溢れた。



硝煙の向こうにお前を見た

(―――そんな気がした)





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