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硝煙の向こうにお前を見た

スパアァァァァァアンッ!!!
と、もの凄い勢いで久々知が近江の自室の障子戸を開けた。
普段の彼ならばきちんと在室を確認し、部屋の主の許可を請うてから静かに入室して来る。
しかし今はそれとは真逆で、近江は最初竹谷が入ってきたのかと思ったくらいだった。

「びっ…くりした。どうした?兵助。」
ドスドスと忍にあるまじき足音をさせ向かって来ていたのは重々承知だったはずだ。俺だという事も気配で判っていただろう。しかし、まさか自分の部屋を無言で開け放たれるとは思っていなかったようで鴻は目をぱちくりとさせた。
無理もない。こんな事される覚えなんて無いのだろうから。
だが俺は構わず鴻の前まで歩み寄る。ズカズカと無遠慮なまでに。

文机に本を広げていた近江は突然の来訪者に目を瞬かせたが、すぐさま座布団を勧める。
文机を背に向かい合うように座り直せば、ドカッと腰を下ろした久々知と視線が合った。
その視線には、ちりっと痛みを伴いそうな鋭いものが含まれていた。
常とは違う様子に、近江は閉口した。
しばしの沈黙。
その間一度も視線を逸らせる事も、瞬きすら許されない様な緊張が漂った。

「鴻、火薬は俺から買え。」
先に口火を切ったのは久々知だった。
それは近江が予想もしていなかった言葉で、一瞬反応するのを忘れた。
「えっ…、何、突然。」
辛うじて近江はそれだけを口にする。

「ごめん、さっきの土井先生との聞いてた。…中に居たんだ。」
俺は知らず視線を落とし、膝の上に置いた手にぎゅっと力を込めた。
きっと鴻は戸惑っているに違いない。
忍務の事を知られるのを好まない鴻の望みを俺たちは受け入れ、直接それに関する何かを言ったりはしなかった。
けれど今は違う。核心をまざまざと突くように告げる。
「忍務で使う火薬は、火薬委員会委員長代理である俺から、買え。」
語尾が強まった。だけど構ってなんかいられない。
グッと見据えるように鴻を見遣れば、きゅっと唇を結んで目元に儚げな色を浮かべていた。


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