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こうして、また何も出来ずに日は過ぎていくのだ

カタン、と煙硝蔵の中で音がする。
作業をしていた久々知が火薬の壷を動かした音だった。
「ふぅ。」
と小さく息を吐き、額の汗を拭った。

今は夕餉の始まる暮れの六つ時。
委員会も後僅かな仕事だけだからと解散した。
しん、と静まり返った蔵の中は外の暑さとは違い、少しひんやりとしていて気持ちが良かった。
火薬はめっぽう水気に弱い。そして暑さからもなるべく遠ざけたい原料も含んでいた。
その為ここは、学園の中でも最北の人気の無い場所に位置する。
「皆が居ないと静かなもんだな。」
久々知は独りごちる。

委員会の人間が居る時は幾らか賑わい、この場所がここまで静かでひんやりとしたものだという事を忘れた。
それは、自分の同級と居る時のような安らぎに少し似ている、と久々知は小さな笑みを零した。
ひとつ笑みを零すと、手にした帳簿に火薬壷の在庫数を記入した。
(…また、土井先生の名前がある。)
在庫の帳簿とは他に、煙硝蔵への出入り記入帳とそれに続く持ち出し・使用料を明記する帳簿がある。
更には個人で使う火薬を、火薬委員会顧問の土井半助か上級生が相手ならば火薬委員会委員長代理の久々知兵助から購入出来る為、それ用の帳簿も存在した。

久々知の元を訪れるのは大体、火器に心酔した四年い組の自称アイドルである田村三木ヱ門か、焙烙火矢を扱わせれば学園一を誇る六年い組の立花仙蔵である事が多い。
それ以外と言えば、試験演習の練習などで使用する理由でたまに他の人物が来るくらいだった。
しかし、下級生だと土井から直接買うか、補習で使う複数人分ならば土井の名で一気に購入して分ける事もあった。
その為帳簿に土井の名があるのは不思議ではないのだが、最近は少し回数が増えた気がする、と久々知は思う。
(一度の購入分はそれ程でもないし、頻繁という程でも無いから気に留める事でも無いんだろうけど…下級生の時に火薬を使う授業なんてそんなにあっただろうか。)


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