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広くて、青くて、危険の溢れた、そんな空に放してください

ザックザック土を削る音と気の早い蝉の声が鳴り響く昼下がり。
天気快晴、体調良好な穴掘り日和。
今日も今日とて無心に穴を掘っていると手元が陰った。

「?」

手元を隠す人型の影を仰ぎ見ると、初めに目に入ったのは五年生である事を証明する宝石藍の装束の端。それから徐々にぽっかりと丸く空いた穴を覗いている人物、近江鴻先輩本人を視界に捉えた。

「お〜、綾、今日も精が出るね。」
こちらを覗いてカラカラと笑う先輩を見つめる。
「鴻先輩、こんにちは。…何かご用でしょうか?」
小首を傾げる私に「いや、用ではないよ。」と微笑んだ。

「新野先生からの言付けを伝えに医務室に行ったら、落とし紙を補充しに行った乱太郎と伏木蔵が戻って来ないって心配してたから見回りをしに。まぁ、案の定落ちてたから救出と点検をしてたってわけ。」
そう言って鴻先輩は眉を八の字に下げ、肩を竦めた。

「おやまぁ、それはまた然りと言うか…流石不運、」
「言ってくれるな、綾部。」
私の言葉を最後まで聞かずに、苦笑を浮かべた鴻先輩が口を挟む。
「まっ、怪我も無く備品も無事に医務室まで届けられたから大丈夫だろ。」

そう言って鴻先輩は穴を覗いている体制から、ぐんっと上体を起こし「う〜〜〜ん」と空に向かって伸びをする。
その光景は、穴の中からはまるで空に落ちて行くような錯覚を起こし、私は咄嗟に腕を伸ばす。

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