08




「お前と、口付けがしたい。」

鉢屋が掠れた声で近江に乞う。もうギリギリなのが窺えた。
近江は静かに微笑むと、それを肯定した。

「いいよ、三郎。俺の“初めて”も、お前にやる。」
そう言い終わるか否かに、近江は唇を塞がれた。
「んっ、」
理性が焼き切れてしまったかのように近江の唇に食らいつく。

―――ちゅっ、ちゅぅちゅく

卑猥な水音が、口から洩れる。
何度も何度も角度を変えては、その唇を味わうように舐め上げた。
なされるがままの近江は、時折鼻に掛かった様な吐息を漏らす。
その度に鉢屋の体温は上がり、むくりと情欲が頭をもたげた。
「んっ、…あ、はぁはぁ、鴻、鴻」
唇を離した僅かな隙に名を呼べば、息を整える事が追い付かない近江が視線で答える。
ビリビリと脳髄に甘い痺れが走った。
この手に、唇に触れている人物は、紛れも無く自分が長年想いを寄せてきた人物だと言う事実が、そしてその人物が自分に応えてくれている事が信じられなくて、鉢屋は確かめるように何度も何度も唇を重ねた。
「あっ、はぁ…っ。鴻、お前が、欲しい。」
近江の肌蹴気味だった夜着の袷を、更に開いて肩を晒す。
ふるり、と近江が身を戦慄かせた。
それすらも煽情的で、鉢屋は急く指をその胸に這わせながら、再び重ねた近江の唇を割って口腔に舌を差し込んだ。
「んぅっ!」
近江はびくっと肩を震わせ、嬌声に似た声を上げた。
煽られるままに鉢屋のそこは固く熱を帯び、限界の兆しを示し始める。
「鴻、鴻…」
上唇を舐め下唇を食み、歯の羅列をなぞって上顎を撫でれば、近江は身を微かに捩った。
それでも拒否する事は無く、躊躇うような仕草で鉢屋に応えた。



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