07




―――ぱさり
外された鬘の中から現れたのは真っ直ぐに伸びた、たおやかな髪。月明かりに照らされても色を判断できないということは、漆黒の髪の持ち主なのだろう。
鉢屋の瞳が、所在無さ気に伏せられる。
安心させるようにひとつ頭を撫でると、近江は手際良く処置を行った。幸い膿は持っておらず安堵の笑みが零れた。
「はい、終わったよ。」
そう告げると、鉢屋は僅かずつ視線を上げた。
近江と鉢屋の視線が交わされる。見つめ合う視線をそのままに、近江は鉢屋の両頬をその手に包んだ。

「三郎、お前は綺麗だな。」

全てを暴いてくれてまで自分を信頼し慕ってくれている鉢屋に、言い得ぬ傾慕のままに言葉を紡く。
その含まれる想いに鉢屋も気が付いたのだろう
「う…うわぁぁぁぁ〜〜〜」
と、幼子の様に全てを放棄して身を預けてきた。
再び押し倒された近江は、泣きじゃくる鉢屋の頭を何度も撫でる。

「鴻、鴻鴻…」
三郎が肌蹴た俺の夜着の中に手を差し入れる。そのまま鎖骨に手を這わせ、ギリッと爪を立てられた。
「…っ、」
微かな痛みが走った。
そこからは、三郎の逼迫した様子が窺えた。
重ねられた身体は熱く、密着した三郎の下肢が俺の太腿に鎮まる事のない熱をじんわりと伝えてきた。
「…鴻、」
そう俺を呼びながら顔を上げる三郎の瞳は、ギラギラとした劣情を孕み、どこか手負いの獣によく似ていた。
無理もない事だと思う。
戦場という所は常に殺気に晒され、自身の命を守ろうと動物的本能が働く。
更には神経がピンと研ぎ澄まされ、絶えず高揚感は付き纏い、上昇した拍動と呼吸、そこから生まれる暴力的な感情は、情事の時の加虐心に少し似ている。



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