04




初忍務、それは生徒の精神に多大な鬱積を与える。
命を落とすかもしれないという事、そして命を奪う確率が高いという事。
実習と違って仲間が居るわけでも(忍務の内容によっては組織上ペアを組まされる事はあるが)、ましてや今時分の実習の時みたいに、先生が控えているという事もない。
それを考えれば、苛む恐怖は計り知れないだろう。

自分の幼かった頃の事を思い返す。
あぁ、消えてしまいたいと願う程恐かったと。
実際六年生といえども自我を失い、悠久の彼方へと意識を手離してしまう者も居た。
それ程までに日常とは逸脱した事なのだ。
それでも留まっていられたのは、俺には守ってくれた父や待っていてくれる母、そしてこの忍術学園でお前たちが俺の帰りを望んでくれていたからだ。
ならば俺もお前たちにとって、少しでもそのような存在でありたかった。
お前たちが忍務から帰ってきた俺を、手放しで迎え入れてくれるように、俺もお前たちが大切で掛け替えの無い存在で、この腕に帰って来てくれる嬉しさを伝えられたらいいのにと思っていた。
(だけど、ちゃんと伝わっていたのかもしれない。こうして、意識混濁はしていても三郎はちゃんと帰って来てくれた。意識を手離す事も、違える事も無く、俺たちの居るこの学園へ。)
「三郎…。」
咽び泣く三郎のこめかみに俺はそっと口付けを落とす。

こめかみに口付けを落とされた鉢屋がふるり、と身を震わせた。
「ぅあ…っ。」
近江を抱き潰すように圧し掛かっていた身体が、もぞりと身じろぎをする。
泣いて真っ赤になった瞳からは、まだ止まる事を知らない滴が溢れ出ていた。
その瞳が近江を捉える。
「っぐ、ふぅ、鴻、鴻。私のものになって。他の誰のものにもならないでくれ…。」
縋る様な、請うような願いが紡がれた唇が、近江の喉元を食む。
「…んっ。」
近江が小さく息を呑んだ。
「…っはぁ、お願いだ、鴻。」
鉢屋は流れる涙もそのままに、その首筋に舌を這わせた。
ぴちゃり、という水音と共にしっとりとした温かい、まるで意思を持つ生き物の様な鉢屋の舌が、その存在を確かめるように鴻の喉上を蠢いた。その行為を、近江は受け止める。



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