03




「…あっ、」
鉢屋が声を詰まらせた。
「悪い、痛かったか?」
夜着の前を、付け根辺りまでたくし上げさせていた近江の手が一瞬止まる。
「ほんの少し我慢してくれ、すぐに処置は終わるから。」
そう言いながら、素早く的確な処置を再開させた。
「んっ…うぅっ」
近江の手が触れるたびに、鉢屋は唇を噛んでくぐもった声を漏らした。
「三郎。」
仕舞にはぼろり、とその瞳から大粒の涙を零した。そうなってしまえば最後、止め処無く次から次へと溢れ返って鉢屋の頬を濡らす。
「…声、我慢するなよ。」
近江は鉢屋の噛み締めている唇に指を這わせ、口を割らせた。
「ふぅっ…うぅ〜〜〜」
それまで幾らか身体を強張らせたまま、手をきつく結んでいた鉢屋だったが、唐突にその身を近江に預けてきた。
近江は咄嗟に受け入れる身構えをしたものの、体格差が少しあるのと勢いに負けて、畳みに強かに背を打ちつけた。
「…っ、」
小さく息を呑むも、その手はしっかりと鉢屋を抱きとめていた。
「あぁ…うっぐ、ふぅぅぅ〜、ひっく」
ぎゅうぎゅうと近江にしがみ付き、嗚咽を漏らす鉢屋の頭をその腕に抱く。

「三郎、三郎。もう大丈夫だよ、お前は無事に帰って来たんだ。もう、恐くない。」
俺は三郎の頭を抱きしめながら、その耳に囁く。
今夜が初忍務だったのだろう。数日前から様子が違っていた三郎の事を思い起こす。
ぼろぼろと涙を流し、俺の夜着をしとどに濡らす三郎をぎゅっと抱きしめた。
「三郎、帰って来てくれてありがとう…。」
そう言葉にしたら、三郎がガバッ!と顔を上げ唇を戦慄かせた。
「うっ…うあぁぁぁ、んぐっ、うえっく」
涙でぐちゃぐちゃになった顔を更に歪ませ、漏れ出る声を抑える事もせずに縋りつくように俺にしがみ付いた。

忍務は上級生にもなれば与えられる人間も増える。六年生などは卒業後の見通しを含め、実習とは別に誰しも通る道だった。
しかし能力が高い生徒は、それよりも前に現地に出される事もある。三郎は選ばれるべくして選ばれたという事だ。



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