02




「もぅ、どっちが上級生なのさ。」
僕は苦笑を浮かべてその姿を見上げる。
「きっと行ったら庄左ヱ門のお説教が待っているんだろうな〜。勘右衛門はそれをにやにやと眺めていて、それらを彦四郎がおろおろとして見ているんだろうな。」
三郎は安易に想像出来る愛すべき委員会の面子を思って笑みを零す。少し浮上したのかと、僕はこっそり安堵の息をついた。
「ふふっ、ほら、そろそろ行っておやりよ。」そう僕が背を押すように言えば「うん。」と三郎は、頷いて部屋を後にした。

静かになった室内で、途端に手持無沙汰になった僕は、本の続きを読もうかと文机に向き直そうとした時「雷蔵、入るよ?」と廊下から声が掛かった。
「どうぞ。」
促されて入ってきたのは鴻だった。
「あれ?雷蔵一人か?…悪い、読書の邪魔したな。」
文机に向かっている僕の様子から、鴻が謝る。
「ううん、今まで三郎と話していただけだから大丈夫だよ。」
僕がそう言って微笑めば「そうか。三郎も今まで居たのか?…ここんとこ様子が少し違ったから見に来たんだけど、入れ違いだったか。」と小さく苦笑した。
やっぱり鴻も気付いていたんだ。きっと僕と鴻くらいしか気付いていない三郎の変化。だから僕たちには、あぁやって甘えて来てくれるのかもしれない、と僕はぼんやりと思った。

「なぁ雷蔵、ちょっとだけ膝貸してくれない?」
鴻が目の前に腰を落としながら尋ねてくる。
「うん、良いよ。」
そう快諾すると、ごろん、と鴻が僕の膝に頭を乗せる。
「あ〜、雷蔵の膝枕は心地が良い。癒されるな〜。」
よく見ると少し隈の出来た目元と小さな傷が残っているのが見て取れた。
「…ここんとこ、鴻は忙しそうだね、身体大丈夫?」
そう言って鴻の髪を梳くように撫でれば「大丈夫、これで回復するよ。」と、鴻が緩く微笑んだ。

極極稀に鴻がこうやって甘えてくる時がある。
それは、僕がいつも三郎にしているそれが心地良さそうに見えたらしく、ある日「俺にも膝を貸してくれない?」と鴻が言って来た。
その時の僕は、間髪いれずに二つ返事をした。だって、いつも頼ってばかりで助けられてばかりの僕でも、鴻が必要としてくれているという事が嬉しかったから。
そしてそれが僕だけの特権であるのが誇らしかった。

鴻はというと、僕に母性に似たものを感じてくれているようだった。だからそこに安心して預けてくれているんだと思う。
ならば、今はそれでもいいかなって思っている。



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