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だからこそ、僕は言わないよ。言ってあげないよ。君が好きだなんて。

ぎゅぅぅぅっと僕のお腹に腕を回し、しがみついているのは三郎だった。
「…どうしたの?三郎。」
今日何度目かになる問いを、もう一度口にする。

ここは僕と三郎の自室。
今はお昼休みで、昼食を食べた後の時間を自室で本を読んで過ごしていた。
そこへ三郎も戻ってきたかと思ったら、文机に本を広げている僕にお構いなしで、脇腹に突進してきた。
吃驚したけど、ここ最近少しだけいつもと違う様子の三郎が心配だったから、好きなようにさせていた。

「…鴻が、構ってくれない。」
三郎は拗ねた顔を見せたくないのか、僕のお腹に顔を押し付けて唸る。
そんなに押し付けて、顔が痛くならないのかなぁ?と僕は苦笑を零した。
「ふふっ、そんな事で拗ねるなんて珍しいね?鴻が忙しいのはいつもの事じゃない。…ん〜、でも、甘えたくなる日もあるよね。」
何かあったのか、それとも体調が優れないのか、極端に弱みを見せようとしない三郎からは、よっぽどの事が無い限り僕にも読み取れなかった。
それでも五年間生活を共にしてきた絆や信頼も勿論あるから、その中で培ってきて解るようになった事も多い。他の人よりそれは多いと思う。だけど今の三郎は、それらを集結させて考えてみてもどれにも当てはまらず、僕はお手上げだった。
唯一解決出来るかと思われる、今まさに三郎が求めている鴻は、委員会当番日で不在だった。

「夕餉の時には戻って来るだろうから、その時に一杯甘えちゃいなよ。」
くすくすと僕は笑って、未だに顔を上げようとしない三郎の頭を、ゆっくりゆっくり撫でる。
「…雷蔵は落ち着くなぁ。雷蔵〜、ら〜いぞう〜」
拗ねるのをやめた三郎は、まるで猫のように僕の膝にごろごろと甘えた。
「ふふっ、くすぐったいよ。」と、少し身を捩る。膝の上で僕を模した鬘がふわふわと揺れる。

「あっ!」
何を思い出したのか、突如がばりと三郎が顔を上げた。
「吃驚した…どうしたの?」
「…そうだ、私も昼休みに委員会があると庄左ヱ門に言われていたんだっけ。」
“しまった”という顔をした三郎が立ち上がる。

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