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きみと禁忌の密約を

すっかり馴染みとなった若は、色んな話を俺に聞かせてくれた。
南蛮の事、そこから渡って来た様々な食べ物や衣類・小間物などの事。情勢や教養も与えてくれた。そして、俺が行きたいと零した忍術学園についてもどのくらいの入学金が必要かなども教えてくれた。

「なぁ、どうしてもそこにお前さんは行きたいのかい?」
床の準備を整えている俺を背後から抱き締めて、若が不意に問う。
「えぇ、どうしても行きたいのですよ。」
俺はふふっと笑って、若の方を振り返る。
ちゅっ。と額に口付けを落とされた。
「そろそろお前も十一の歳になるだろう?忍術学園では二年生に上がって間もない頃だ。そろそろ編入して勉学に追い付きたいだろう?」
一つひとつ確認を取るように若が言葉を紡ぐ。
「はい。しかしお恥ずかしいお話しながら、まだ入学金がやっと集まるかどうかという所でございます。教材などを揃える為には、もう少しの間は資金繰りをせねばと考えておりました。」
正直に打ち明ける。すると若は「その資金、俺が工面してやろうか。」と言い出した。
俺は驚きのあまり、声が出なかった。
「あっはっはっはっ、お前でもそんな顔をするのだね。良いものを見た。」
若は心底可笑しそうに腹を抱えて笑い出した。

「いけずなお人。そんなにお笑いにならなくても宜しいではありませんか。」
近江は、ふいっと拗ねた素振りを見せる。
そう反らした顔を、再び自分の方へ向くように手を添えられた。
「そう拗ねるな。工面の話は本当だよ。俺はそれ程までお前に惚れている。」
向かせられた至近距離で近江と若の視線が絡み合う。
「それに、いよいよ俺も家業を継ぐために多忙になる。ここにもなかなか来れなくなるしな。そうなれば、お前は知らない内にここを去っているのだろう?ならばいっそお前が生涯忘れられない恩を売って、想われ続けていたいのだよ。」
若は近江の袷にするり、と手を差し入れる。手に吸いつく様なきめ細かい白めの肌は、まだ硬い筋肉が多くは無い柔らかな近江の肌に合っていて心地が良かった。
「んっ…。」
近江が小さく息を呑む。
その声を、若がうっとりと酔いしれたような表情で聴く。ただそれだけで、若の指先の体温が上がったのが分かった。

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