03




「さて、これでお前に逃げ道は無くなってしまったのだが、俺に応えてくれんのかい?」
にやり、と少しの意地の悪さを垣間見せて、若が俺の腰を引き寄せた。
「…お嫌ですと申し上げたら、私を離して下さるのですか?」
若の胸元に手を添えて、はんなりとした表情で窺い見る。
「ほぉ…。そんな顔して言われたら、頷いてやりたくなるじゃないか。だが、そのつもりは毛頭無いぜ?憐憫を覚えるよりも先に劣情の方が勝ってしまった。」
若はチラリと舌を覗かせ、好色を示した瞳で俺を射抜いた。
「…っ、承知致しました。ですが何分初めての事ですので、至らない点が多分にある事と存じます。ご容赦下さいませ。」
俺は覚悟を決めて居住いを正し、深く深く頭を下げた。
「その潔さと殊勝さ、ますます俺の好みだなぁ。」
くつくつと笑う若は、引き寄せた腕に一等力を込めると、そのまま俺の喉元を強く吸った。



でもきみは、逃げない

(―――この時、男に抱かれると言う事を、知る。)





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