05




「綺麗だったよな〜。俺ね、昔はあの花火の音、太鼓で打ってるんだと思ってたんだ。花火は無音で、上がって爆せたのを見計らって職人が下で太鼓をドーンって打ってるんだと思い込んでたんだよ。だから光と届く音に差があるんだって。」
くつくつと先輩が喉を鳴らして笑う。その振動が俺にも伝わり、なんだかくすぐったかった。
「近江先輩にも可愛いとこ、あったんすね。」
俺もつられて笑うと「言ってくれるなぁ。」と、先輩が可笑しそうに、ぐしゃぐしゃと俺の頭を混ぜた。

「…きり丸、夜明けまでまだある。もう少しおやすみ。」
近江先輩はもう一度俺をぎゅっと抱きしめると、優しく囁いた。
密着した体温と、耳に伝わる声、そしてその人の生きている証である心音が心地良かった。



夜明けの世界におやすみを

(―――あの音は太鼓の音、そう思えばもう恐くない。)





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