03




「や…ッだぁ!ああぁ…ッ、うぇっ、ぐ、母さん!!父さん!!」
「そのまま床下を通って裏へ抜けなさい。そうしたら急いで村を降りて。決して振り返っては駄目よ、決して。いいわね?」
「やだ…嫌だよぉ!!父さん!!!!!…かあさぁぁぁぁぁぁんッ!!!!!」







「―――ッ!!!」
ガバッ!!と弾かれたように身を起こした。
まるで体中に電流が走ったかの様にぶるぶると身を震わせ、初夏だと言うのに歯の根が合わずガチガチと奥歯が鳴った。
「―――は…ッぁ、はぁはぁ…ッ。」
息をする事を思い出したように、不規則な浅い呼吸を繰り返す。
(…ゆ、夢?だったのか?)
摂津はじっとりと夜着を濡らす汗を感じた。べったりと衣類が肌に張り付く感覚。びっしりと浮かんだ額の冷や汗。
摂津はツーっと流れ落ちた額の汗を、震えながらも夜着の裾で拭う。
(夢…、昔の夢を…見ていたのか。)
ドッドッドッと鼓膜を圧迫する自身の心音を落ち着かせる為に深く深呼吸をする。
そうすることでほんの少し落ち着いた身体には、やっと血が巡り始めたのか、手足の先を冷たく痺れさせていた感覚が僅かばかり和らいだ。次第に圧迫されていた鼓膜にも、しんべヱの盛大ないびきが聞こえてきて、今の今まで全く聞こえていなかった事に摂津は弱々しい苦笑を浮かべた。
(大丈夫、大丈夫だ。ここは忍術学園だ。俺の村じゃない。)
自分に言い聞かすように胸中で呟く。

摂津はふと、隣に眠る猪名寺に視線を移す。
しっかりと閉じられた瞼。ほんのり開いている口元。
呼吸が小さいのか、一見動いているのか分からないその胸元に摂津は耳を寄せた。

とくん、とくん。

耳朶を馳せたその胸元からは、ゆっくりと上下する呼吸音と、規則正しい心の臓の動きが響いてきた。
(大丈夫、大丈夫だ。生きてる。)
もう一度自身に言い聞かせるように摂津は瞼を伏せる。



[ 83/184 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]



- ナノ -