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ドーン、ドーンと、遠くから地響きが聞こえた。遅れて身体を揺すらす振動。
不定期に鳴るそのドーン、ドーンという音は、最初は花火の音なんだと思った。
あぁ、俺、夢でも花火をまた見ているんだって。しんべヱたちが言ってた通り、また見たいって思ってたからかなぁって。
(だけど、真っ暗だ。何でだ?花火が見えない。)

ドーン、ドーンと鳴っていた音は、どんどんはっきりと摂津の聴覚を振るわせ始め、そしてドンッ!ドドドッ!!と花火には似つかわしくない鋭利な戦力を孕むものへと変わっていった。
(えっ?)
段々とはっきりとした感覚になる耳に入ってくるのは、花火の音だと勘違いしていた、おそらく銃器と思われるものの筒音。そして、家が焼き払われているのであろう木々の爆せる音と、轟々と轟く炎の熱風音、逃げ惑っているのであろう人々の悲鳴、刀の音に罵声に怒号。
(何だこれ、どういう事だ!?)
冷やりと背中を嫌な汗が伝った。ドッドッドッと肥大していく鼓動と頭を圧迫するような痛み、言い得ぬ恐怖が全身を苛んだ。
(兎に角、視界を!)
そう思って摂津が身じろぎをすると、どうやら抱きすくめられていたようで、摂津を抱く腕の力が緩む。
次いで光が差し込み、自分を抱き込んでいた人物の顔が見えてきた。

「きり丸!!早く逃げなさい!!」
今までその胸中に摂津を抱き守っていたのは、
「…母さん。」
「早く!あなただけでも逃げなさい!!」
狼狽する摂津を胸中から解放すると、僅かにずらした床板の中へと摂津を押しこむ。
「嫌だ…母さんと父さんと一緒がいい!!」
摂津は力いっぱい頭を振り、自分を逃がそうとする母の腕を掴む。
「…ここはもう駄目だ。すぐに奴等はここにも来るだろう。…きり丸、私たちの可愛い息子よ。お前だけでも生き延びてくれ。」
母の背後で最後の砦を守っていた父が、優しく摂津を振り返り微笑む。
「ふっ、うぅッ…嫌、うぐっ、嫌だ!嫌だッ!!」
聞き分けのない駄々っ子のように摂津は溢れ出る涙もそのままに母の腕にしがみ付いた。
「きり丸、良い子だから聞き分けて頂戴。私たちは何があってもあなたを見守っているわ。だからお願い。行きなさい!!」
母はおもむろに挿していた簪を、摂津の手の甲へと刺す。
「――ッ!!」
痛みに一瞬離してしまった手から素早く逃れると、母は摂津を床下に押し込めてきつく蓋をした。



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