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夜明けの世界におやすみを

今夜は豊作祈願の祭りがあったらしく、夜に花火が上がった。
祭りがあることを知らなかった俺たち、一年は組はもれなく長屋の縁側で夏の風物詩を見上げてお祭り気分を味わった。
ドーン、ドーンと色とりどりに咲き誇る夜空の華に「たーまや〜」「かーぎや〜」と囃し立て、堪能した。どの花火が綺麗だったとか、何の形に見えたとか。カラクリコンビは、花火の原理をもっと生かせないかとか、乱太郎なんかは花火師が怪我しないか心配していたし、しんべヱは屋台の何が食べたいとか食べ物の話しばかりしていた。かく言う俺も、あの花火は売ったら一玉どの位の銭儲けになるのかな〜なんて考えたりしていた。
まぁいつも通り平和だって話し。

存分に花火を見た摂津たちは、その興奮も冷めやらぬまま就寝時間になり準備を整えていた。
「綺麗だったね〜。私、あんなに大きな花火初めて見た気がする。」
猪名寺が眼鏡を外しながらふふっと笑う。
「僕も〜。途中に上がった花火が目玉焼きに似てて、僕お腹空いちゃった〜。あ〜んなに大きな目玉焼きがあったら良いのに〜」
思い描いたのか、福富が涎を垂らしながら締りの無い笑みを零す。
「しんべヱ、涎垂れてるぞ。」
摂津が苦笑して手拭いを差し出す。
「ありがと〜きり丸。ねぇ、きり丸はどの花火が綺麗だったぁ?」
福富が涎を拭いつつ摂津を見上げる。
「俺は綺麗っつーよりどっちかってーと、一玉でどんくらい儲けられるか…うえっへっへっへっ。」
「きりちゃん…目が銭になっちゃってるよ。」
途中から煩悩丸出しで悦に入る摂津を横目に、猪名寺が呆れた声を零す。
「それにしても、本当に綺麗だったね。今夜は良い夢が見られそう…。」
そう続ける猪名寺声が、段々夢現に消え入って行く。
「本当、夢でもう一回見られたら良いな〜、おやすみなさーい!」
ごそごそと布団に入った福富が、おやすみの号令をかける。
「おやすみなさーい。」
眠気でふにゃりとした声の猪名寺と、次いで布団に納まった摂津が続く。
いつものように川の字での就寝。普段と何ら変わらない夜のはず、だったのに。

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