02




一行は五年長屋の屋根に登り、花火が上がるであろう方向に横一列に並んで座る。
「もうすぐか!?むちゃくちゃ楽しみだな!」
心躍っている様子が一目で分かる竹谷を久々知が見遣る。

「あんなに純粋にわくわくした様子を見せられると、いっそ清々しいな。俺はあまり顔には出ないから、ころころと変わる八の表情は少し羨ましい。」
そんな事を零したら「そうでもないけどなぁ。結構俺らには表情豊かだよ、兵助は。」と、横に並ぶ鴻が目元を柔らかくして言った。

…鴻のこういう時の雰囲気が、俺を堪らなくさせた。
どうにも上手く反応が出来ない。
心の臓をきゅっと掴まれたようで、呼吸が詰まる思いがした。

「ほら、表情に、出ているよ。」
わざと言葉を区切って俺に言い聞かす鴻が、何だか憎い。
(どんな表情をしていると言うんだ。なんて、恐くて聞けない。)

「…お前はたまに、意地悪だ。」
せめてもの強がりでそれだけを言うと、俺は鴻から視線を外した。
「ごめん、ごめん。そうやって俺たちには見せてくれる兵助の色んな表情が嬉しくてつい、ね。悪かった。」
くすくすと鴻が笑って、俺の頭をひとつ撫でる。
それを合図に、空には煌めく華が咲いた。
いくつも、いくつも。まるで、俺の中の何かに呼応するように。



煌めく世界と

(―――そうやって心中を乱していくのは卑怯だ。)





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