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煌めく世界と

「今日は豊作祈願の祭りがあるらしく、もうすぐ花火も上がるらしいよ。」と、鴻が狐の面を着けて現れた。
雷蔵と三郎の部屋に集まっていた俺たちは、一瞬状況が呑み込めず目を瞬かせる。

「鴻、どうしたんだ、その格好。」
頭の横に狐の面を着け、浴衣姿でべっこう飴を五つ持った近江に久々知が問う。
「学園長の何時ものおねだりさ。」
と、近江が苦笑を浮かべた。

どうやら豊作祈願の祭りがある事を学園長が知り、屋台の食べ物やお面などを買って来て欲しいと鴻に頼んだらしい。
鴻はこうやって学園長の気まぐれにも付き合わされる事が多々ある。忍務であったりそうでなかったり。
忍務については知られる事を好まない鴻の意思を汲んで、俺たちは聞かない事にしている。その為どちらに向かったのかが解らない分、気が気じゃない。
だから今回の様に忍務じゃなかった事に安堵するのと同時に、突拍子の無い事が加わると呆けてしまう。

「浴衣姿なのは、単なる学園長の気まぐれ。“祭りには浴衣じゃろう!”って着替えさせられてさ。あっ、これは学園長からの褒美で貰った。」と狐の面を指す。
「あとこっちは、俺からの土産。」
そう言って、べっこう飴を一人ずつに配る。
「「ありがとう。」」
にっこりと声を揃えて微笑む不破と尾浜。
「あ…うん。」
忍務ではなかった安堵の方が勝り、呆けたままの鉢屋。
「…ありがとう。」
同じく、目の前の近江の格好に対応しきれていなかった久々知の礼が重なる。
「良いな〜!!俺も行きてぇ!あっ、花火上がるんだろ?屋根に登って見ようぜ!!」
ありがとうな!と早速べっこう飴をガリガリと齧りながら、竹谷が名案だとでも言うように、にかっと眩しい笑顔を携える。
「それ、良いね〜」
「風流だな。」
「見つかったら怒られちゃうね。ふふっ」
「…八、飴は噛み砕くもんじゃない。」
わくわくした様子の尾浜・鉢屋・不破が、竹谷の立ち上がりに続く。
遅れて、飴を噛み砕く竹谷に注意を入れた久々知と、飴を頬張る五人に満足した近江も後についた。

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