02




漸く鴻と視線が合う。
ここまで少し緊張している様子だった鴻の肩から、ふっと力が抜ける。
「…お見舞いにも来ず、失礼致しました。本当は、来られなかったのです。どんな顔をしてお会いすればいいのか…分からなかったものですから…」
再び俯き、膝の上で結んだ手にぎゅっと力が入ったのが見えた。そんな鴻の頭を、もうひとつ撫でる。
「何言ってる。お前は俺の命の恩人だ。感謝こそすれ、嫌う理由など微塵も無いじゃないか。」
下級生に言うように、ゆっくりと教えるように伝える。
(恐れてくれるのか。俺たちのお前を見る目が変わってしまうんじゃないと。)

「なぁ鴻、もっと俺たちに甘えて来い。絶対にお前を疎んじたりはしない。」
キッパリと俺は言ってやる。
共に過ごした約三年近い歳月の中で、こいつの同級程の密接さは無いけれど、それでも共に歩んできた絆がある。
そして、ここに来て初めて見せてくれたこいつの“恐怖”。それすらも愛おしいんだぜ。俺らには。

「いい加減、強がりばかり抱きしめてないで、もっと俺らに、甘えて来い。」
助けられた方が言えた台詞じゃねぇんだけどな、と笑うと、鴻は何とも言えない幸せそうな、年相応の幼さの残る柔らかい笑顔を零してくれた。



つまりは覚悟を持って感化されるべきだ

(―――思い知れ、俺たちがどれだけお前を大事に想っているか。)





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