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つまりは覚悟を持って感化されるべきだ

「…食満先輩、失礼します。」
そう言って保健室の戸を開けたのは、俺より一つ年下の後輩、近江鴻だった。
数日前俺と伊作が運悪く、実習帰りに学園長の命を狙った忍に襲撃された。
そこで深手を負った俺と、俺を守ろうとした伊作を、忍務帰りに出くわした鴻が助けてくれたと伊作から聞いた。
情けない事に、気を失っていた俺が次に目を覚ましたのは、それから丸一日経ってからだった。

鴻に礼を言いたくても満足に動けず、かと言って出くわした状況が状況だから、あいつから来る事は無いだろう。心配してくれていても、だ。
鴻は忍務に関わっている事を知られるのを、あまり好んでいない様子だった。
忍務内容については、上級生になれば勿論、暗黙の了解で誰も聞き出したりはしない。
しかし鴻は“忍務に出ていた”という事実そのものを、素知らぬ振りをして、無かったように日常に帰ってくる。それは、どんなに疲れていても怪我をしていても変わらなかった。
だから俺たちも敢えて触れることはせず、何ら変わらない振りをする。
(でも鴻、そろそろ俺たちに甘えたらどうだ。俺たちがお前を好いている様に)
鴻が俺たちを好いてくれているのは判っている。信頼を寄せてくれている事も。
だからこそあいつは、俺たちに決して弱音を吐かず、己の足だけで立とうとするのだ。
(何がお前をそうさせているんだ…)
俺が起き上がった布団の横に正座する鴻の動きを見詰めながら、そんな事を思う。

「わざわざ呼んで悪かったな。」
「いえ、俺の方こそ…その、すみません。」
鴻が目線を反らしながら歯切れの悪い返事をする。
「何故お前が謝る?謝らなくちゃいけないのは俺たちだ。お前を危険に巻き込んで悪かった。それから、助けてくれてありがとうな。」
俺は鴻の頭をぐしゃぐしゃと掻き混ぜる。
「また食満先輩は・・・俺はしんべヱたちと同い年ですか。」
どこか照れくさそうに鴻は文句を言った。
不服を口にするものの、本気で嫌がられた事は無い。
そこに甘んじて止めない俺も俺なんだけれど。
「いいじゃねぇか、減るもんじゃねぇんだし。」
笑って受け流すと「そうなんですけどね」と鴻は苦笑を浮かべた。



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