02




既に意識が朦朧としかかっていた近江は、善法寺の心音を子守唄にすぐに夢の中へと落ちた。
瞬く間に深い眠りの呼吸へと変わる。
「ごめんね、鴻。ごめん。鴻が大切にしている事を破ったりはしないから。だけど、ほんの少しだけ…許してね。」
善法寺はそう呟くと、そっと近江の額に口付けを落とす。

ちゅっ…
小さく唇の触れる音がする。

ちゅっ、ちゅ…ちゅっ。
目尻、鼻、頬と更に口付けを落とす。

「…っふ、う〜〜〜…」
善法寺は心臓が破けてしまうんじゃないかと思えるほどの愛しさと、もどかしさ、切なさが綯い交ぜになって思わず涙を零した。
「鴻、鴻鴻鴻…。好きだよ。好き…大好きだよ…。」
ポロポロと善法寺の頬を伝う涙は、重力に沿って近江の頬に落下する。

ちゅ…
その落ちた涙を拭うようにもう一度頬に口付けをする。

「…鴻、怒るかな…怒るよね、でもお願い、怒っても嫌っても良いから…」
ぐっと涙がせり上がる。

うそ。嫌っても良いなんて嘘。でも、どうしても叶えたいと思ってしまう自分勝手な欲。
「唇は、ちゃんと避けるから…だから、許して…?」
許しを請うように、切なくて切なくて愛しくて苦しくて、今にも嗚咽が漏れそうに震える己の唇を、近江の口元に近付けた。

ちゅっ。

唇の真横、ギリギリ唇には触れない場所に精一杯の口付けを落とす。

「は…ぁ、鴻、大好きな鴻。ごめんね、酷い事したね、ごめん…」
尚も溢れる涙をどうする事も出来ずに、そっと唇を離したその距離で囁く。
少し力を抜けば再び触れる距離。



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