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「僕だって忍者のたまごだ。忍には不向きだって言われるけど、それでも此処に居る意志や覚悟がある。…僕だって、守るためなら殺すことだってあるんだよ。」
善法寺はぐっと唇を噛み締める。

「…みくびらないで。本気で鴻の事を軽蔑するんだと思っているなら、もう一度叩くよ。」

じんわりと広がる頬の痛み。
あぁ、ごめんなさい、伊作先輩。
分かっていたはずなのに。
貴方は合戦場で敵の兵まで治療するほど、生を分け隔てなく慈しみ、治そうと守ろうと、尊ぶ優しさを持ち合わせている事も、生かす為に、生きる為に殺す事も選べる強さを持ち合わせている事も。
ごめんなさい先輩。
誰よりも優しい貴方に手を挙げさせてしまった…。

「ごめん、なさい。」
やっとの思いで口に出た言葉は、とてもとても小さくて、音にするのもままならないものだった。
けれど、伊作先輩はちゃんと拾ってくれた。
その中に凝縮させてしまった様々な想いも一緒に。

「…お風呂入ろうか。僕たちドロドロだし、このままじゃ部屋に上がれないしね。」
ふっと直前までの張り詰めた空気が緩み、伊作先輩は苦笑を浮かべて俺の手を引いた。
「せっかくだから一緒に入ろうか…。」

頼りない様子の俺の心配をしてくれたのか、伊作先輩はそう言うと六年長屋の方を回ってお風呂へ向かった。



傷つくことも、傷つくための繋がりさえないはず、だったのに

(―――鴻、お前を傷つけることを厭わない人間は、ここには居ない。)





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