03




ドサドサッ
善法寺の背後の木の上と、草原の中から黒装束の男たちが倒れ出てきた。
的確な狙い。仕留め損なう事無く急所を射ていた。針の先に毒が仕込んであったのだろう。ぴくり、とも動かない間者が息絶えているのを確認しようと近江がそちらに顔を向ければ、必然的に善法寺の顔が視界に入った。

近江を見上げる善法寺は、感情の無い顔をしていた。

「鴻、あ『伊作先輩は先にお戻りになって、新野先生に食満先輩の事をお伝えください。』
近江は善法寺の言葉を遮り食満を担ぎなおした。
「…分かった。」
善法寺は何か言いたげな表情をしたが、今優先させるべき状況を思って小さく頷く。
「留さんを、頼むね。」
それだけを残して、善法寺は空を舞い駆けて行った。

「ぐっ、げほ、ッ。」
近江は、襲う吐き気に一瞬体制を崩しそうになる。
胃の中に吐き出される物なんて何も無いから、胃酸が競り上がってくるくらいが精々だった。

(情けない。こんな事くらいで参るなんて。
恐い。
軽蔑されただろうか…躊躇なく人を殺める俺を。)

「でも、それでも構わない…。あの人たちが生きていてくれさえするのならば。」
近江は食満を背負う腕に力を込めて、なるべく振動が起きないように注意を払って、忍術学園までの足を速めた。


学園に戻ると、門の前に善法寺が立っていた。
「新野先生にはお伝えしてある。準備してお待ち頂いているよ。」
「分かりました。」
それだけのやり取りをして保健室へ向かう。

食満の怪我は深いものだったが、幸い命に関わるものではなかった。
善法寺と近江が安堵の溜息を吐く。
「…それでは、俺はこれで失礼します。」
食満の無事を見届けて近江が部屋を出る。
「鴻待っ…」
引き留める善法寺の声を無視して近江は保健室を後にした。



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