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痛いという感覚、それは私に生きている実感を唯一今与えてくれるものなのでしょう…アリアは貧血気味の体をベッドに横たえながら、ぼんやりと頭の中で考える。

生きてゆく為にはお金が必要で、それ以外で誰かと関わるということがなかった彼女にとって、例え人ならざるものであるとは言え誰かが隣で寝ているというのも不思議な感覚だった。

「こうやって誰かと共にあるなんて考えなかったな…」

「…独り言とかやめてくれる?こっちは眠たいんだけど。」

顔をこちらに向けることもなく返ってきたシュウの声に、アリアは小さくごめんなさいと声を返す。

「ねぇアンタ結婚とかしなかった訳?」

「する予定はあったんです。婚約者もいました。でも私はあの晩に…急な病に倒れ亡くなったということになって…「そのまま、って訳?…まぁ俺には関係ないけど。で、それからずっと1人で生きるってどんな感じ?」

「暗闇の中にいるみたいな…死という当たり前に訪れる筈べきものが、私にはいつ来るのかすら分からないんですよ?…早く死にたいそう思って日々を生きてました。」
でも、シュウさんあなたは私達人間とは違う生き物ではあるけど、こうやって隣に置いてくれているそれだけで私には十分なしあわせです。誰かの元で死ねるのですから。

アリアはそう言って綺麗な笑顔を浮かべる。…やっぱりこの女、ちょっと頭おかしいんじゃないのか?血を吸われ、これからぞんざいに扱われるであろうことなどわかっている相手に向かって、感謝するなんてバカ以外ありえない。

「アリア…アンタ長生きしてるって言う割にはバカなんだな。」

「それでもいいんですよ。こうやってなんでもない話を誰かとするのすら久しぶりなんですから。」

…シュウは思いを巡らせる。幼かったあの頃の自分と彼女は似ているんだ。エドガーと会う日を楽しみにしていたあの日々に。

「まぁ、分からなくはないけどな…眠いし寝る。」

「はい、おやすみなさい。」
横たわるアリアの体をぎゅっと抱きしめてみる。自分にはない暖かい体と血の臭いが、心を穏やかにさせてゆくな…と感じながらシュウは目を閉じた。

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ノックの音が聞こえ、アリアはゆっくりと目を開ける。隣に眠るシュウの身体を揺すってみるが全く起きる気配はない。
それでも響き続けるノックの音に返事を返していいのか?と悩んでいると、我慢の限界が来たのか扉が開かれる。

「シュウ!貴方はまだ寝ているんですか!本当にだらしのな…貴女は誰ですか?」
「…アリアです。昨日その…シュウさんに血を…」

「穀潰しに血をあたえるなんて貴女も酔狂な方ですね。勿体無いことはお辞めなさい。」

制服なのだろうか?それをきちんと着こなし、メガネを掛けた男性。その人は忌々しそうにチラリとシュウを見下ろし一気に布団を剥ぐ。

「…なんだ、レイジか…」
「なんだ、ではありませんよ!だいたい女性を連れ込んで惰眠を貪るなんて、同じ血が流れてるとは思いたくもない位貴方はほんとうに愚図ですね。遅刻しますよ!」

寝起きのけだるい雰囲気のシュウにその様子に腹を立て始める彼。アリアはどうしていいかわからずただその場でキョロキョロと両者を見つめることしかできないでいた。

「めんどくさい…さっさと行けよレイジ。俺は休む…」

再びベッドに倒れて混むシュウの姿を見て、レイジの口からは深いため息が漏れる。

「全く…あぁ、そういえばそこにいる貴女。申し訳ありませんが、その穀潰しの世話でもしていてください。」

時計をチラリと見ながら、アリアにそう言うだけ言って、レイジは部屋を後にする。

「お世話って…寝てるし…子供じゃないし…なんだろ?」

規則正しい呼吸を繰り返すシュウを横目に見ながらアリアもシュウの隣に潜り込んだ。





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